主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと。そして、それからのこと。

介護

【施設からの電話──抱擁の力を信じて】

2018年9月8日未だ全快に届く気配のない週末の土曜日──父の墓前に兄の還暦を報告にいくつもりだった。昨日の母とのやりとりも気になったままだし、墓参りのあと、もう一度母に会いに行こうと考えていたが、すべてキャンセルして、養生に専念することに…

【母が母になった日】

2018年9月7日60年前の今日、兄が誕生した。それはつまり、母が母になって、今日で60年が経ったということになる。「今」という瞬間は、現在の母にとって認識できない事象になっている。ぼくは未だ体調が優れないままだから「今日」にこだわる意味もな…

【雨・雨・雨】

2018年9月2日救急車を自分のために呼んだのが、まだ昨日の朝のことだなんてまったく思えない。もう随分前の出来事のように感じる。適正な検査の結果、身体機能に異常がないことがわかって何よりだったが、今朝目覚めても、未だ疲れや違和感は拭えてい…

【さよならテレビ】

2018年9月1日こんな日が来るだなんて…。旧フジテレビがあった新宿・曙橋界隈で育ったぼくは、思春期のころ、隆盛する同局の勢いを目撃しながら、将来はテレビマンになりたいと思っていたことさえあったというのに。──無常──万事は絶えず移ろい変化して…

【自分で自分のために救急車を呼ぶ朝】

2018年9月1日この疲れは、侮れなかったようだ。昨日の夕方に感じた違和感が、その後も明け方まで断続的に続いた。──左胸が苦しい──思えば二ヶ月前から喉が痛い。一ト月前からは左肩も痛む。──これはまさか──救急車をお願いするのは、母にために何度も…

【リブート──コーヒーと珊瑚とケーキの記憶】

2018年8月30日 夕刻、帰宅して丸3日が経とうとしていた。 ようやく「コーヒーでも淹れてみようか」という気持ちが湧いてきたので、自分のために買った唯一の土産=35 COFFEEを手に取った。 ──摂取したカフェインが脳を叩くまで20分── 動ける気配が全…

【シャットダウン】

2018年8月30日起き上がれない。いや、「起き上がりたくない」と表現するのが正確かもしれない。──完全なる活動停止──出張による極度の疲労と母の受診付添いによる気づかれのダブルパンチを喰らった。今できる限りの栄養を摂取してひたすらに眠ったお…

【母の乱心──叩く・蹴る・噛む・抓る】

2018年8月29日沖縄出張から戻って中1日で横浜に向かった。母を歯科受診に連れて行くためだ。疲れはまったく収まる気配はなかったが、1日でもはやく、母の義歯調整を進めたかった。下歯の義歯が破損してからもうだいぶ時間が経ってしまった。それだけ…

【さよならの朝に】

2018年8月26日早朝に目覚めて、ベッドを見つめる──。沖縄滞在最後の夜は、こんな調子だったらしい。──ベッドに潜り込む気力さえなかった──打上げを終えて客室に戻ったのは、25時過ぎ。休むまもなく着替えて、24時間使えるジムに向かった。滞在期間中…

【夏の終わりに──夕暮れと鈴虫の声と蛍光灯】

2018年8月18日平成最後の夏が終わろうとしている。暦のうえではもう秋──昼間は蝉の声が聴こえるが、夜になると鈴虫が騒ぎ出す。自然は、今日もたしかに、時間が進んでいることを伝えてくれる。毎年この季節になると、母がよく口にしていた言葉を想い…

【カーキ色のソファー】

2018年8月17日頭のなかが色んなことで渦巻いている。こんなときは、単純作業をするのがいい。掃除や家の雑務は、まさに作務のような効果が期待できる。思考が整理されるのはもちろんだが、この一見、生産性も意味もなさそうな営みのなかに「ある気づ…

【めぐる命】

2018年8月15日今日、当時「この日」を実際に経験した母に会っておきたかった。当日のことはよく話してくれたが、今の母が何度目かの今日を迎えて何を口にするのか? それともしないのか? 興味があった。──やっとぐっすり眠れる──その日、母は12歳。…

【答えが知りたいわけじゃない】

2018年8月14日今夜も米が美味しく炊けた。十六穀米入り玄米である。ながらく胚芽米を愛用していたけれど、今年の春から玄米に切り替えた。つけ置き時間がながいなどやや手間がかかるが、ぼくの激しい咀嚼欲を十二分に満たしてくれるため、最近では、…

【虫の知らせ──premonition】

2018年8月13日この単語を憶えたのは、10代の終わりごろだったろうか。David SylvianがHolger Czukayと協働したアルバム《Plight & Premonition》を聴いたときだった。あれからながい年月が過ぎた今年、なんと再発を果たしたというので、現代的にスト…

【ひとりよがり】

2018年8月10日昨日の母の態度が、頭にこびりついて離れない。──途方に暮れる──母に背を向けられたときの気持ちを言葉にするなら、きっとこうだ。どうしたらこの気持ちを手放せるのか見当も付かなかった。ただ…母を見守り続けたこの6年近くの時間を思…

【母の苛立ち】

2018年8月9日従兄弟から毎年贈られてくる千葉・八千代の梨を母にも食べてもらいたくて、今日は丁寧に皮を剥いて、しっかりと保冷した状態で持っていった。──義歯はなくとも食べられる──その見込みが見事に甘かったことを思い知らされた。母は嬉しそう…

【Who are you?──だからこれでいい】

2018年8月8日またもや破損した母の義歯修理のため、母が30年間以上お世話になっている横浜の歯科医院まで付き添った1日──。台風の方角へ向けて車を走らせるだなんてよほどの事情がない限りしないが、義歯がない=食事がうまく摂れないことにも通じるた…

【父の墓参り2018夏】

2018年8月6日今日は月に一度の通院日。この医院に通い始めたのは2014年11月からだから、次に冬を迎えると、もう丸4年になる。病院にあまりいいイメージのなかったぼくに、その違和感を和らげてくれたのは母だった。付添いで向かったあちこちの病院で、…

【旅立ちの支度】

2018年8月5日今年も千葉に暮らす親戚から、八千代の名産、梨が届いた。母に食べさせたいと、よく冷やしてから剥いて、持っていく準備をしたけれど、昨日、義歯破損の報告が入ったことを思い出して、一旦様子を確認するまで見送ることにした。梨を剥い…

【父の命日2018──長生きできる幸運】

2018年8月4日今年もまた、この日を迎えることができた。そう、まさに「できた」のだ。今日という日は、誰にでも与えられるわけではない。母の不調と、自分の年齢と経験による物事の捉え方が変化してきたせいか、47歳を迎えたこの1年は、生命について考…

【恍惚のとき】

2018年8月2日事務専用机を設けた。これまではスタジオ内で並行して行っていたのだけれど、実に能率が上がらない──事務を始めると空間は書類であふれて作曲に手がつけられなくなり、作曲に集中するため書類を整理すると、今度は事務が滞ってしまう。──…

【鶏肉とひよこ豆のトマト煮】

2018年7月24日前夜は、朝を超えて昼間際まで歌詩を綴っていた。iPhoneで曲を再生しながら、標準アプリの「メモ」に思いついた言葉を書いていく──。所有しているすべて端末間で自動的に内容が同期されるため、どの端末で書いても、録音に使用するマシ…

【遂に野菜を蒸し始める】

2018年7月20日真夜中に、ごそごそ台所で主夫ロマンティックに変身──。夜更けに買物に出ると、普段あまり寄る機会のない業務スーパーのネオンサインが目に留まった。──久しぶりに牛すじ煮込みでも作るか?──冷凍食品をまとめ買いするにはとても便利な…

【新のお盆2018】

2018年7月16日新のお盆が終わろうとしている。母が東京に建てた墓のあるお寺さんでは、この時期、例年法要が行われている。広い仏殿で心を鎮めるのもいいが、どうもぼくは、こうしてひとりを選んでしまう質らしい。京都で大家族の長男に嫁いで、日々…

【この上なく誘惑に満ちた背徳の嗜み】

2018年7月15日これは祝福か? それとも呪いか?──見事だ──ビギナーズラックというよりも、これは、育まれた才能が開花してしまった瞬間というに相応しい出来栄えではないか?出来立ての湯気が立ち込めるパンを頬張る──。なぜだか、禁断の扉を開けてし…

【初めての食パン作り】

2018年7月15日暑い──。──この天からの恵みを活かす術はないか?──まわらない頭でそんなことをぼんやり思い浮かべていると、冴え渡るアイデアが浮かんだ。──そうだ! パンを焼こう!──といっても、焼いたことはない。だが、随分前に、道具と材料を揃え…

【ぼくのなかに棲む母】

2018年7月11日午後、いつもの指定した時間帯に荷物を受け取った。ドライバーの方と二言三言交わして挨拶をする──そうした日常の何でもない瞬間に、気づくことがある。──ぼくのなかに、母がいる──ぼくのすべては、母からできている。母がしてきたこと…

【母の献身に応える術】

2018年6月29日28時──。作り置きの白菜の浅漬けサラダを仕上げて後片付けを終えたところでこの時間になった。リハーサルからの帰り道に、疲れた身体に鞭打って買物に寄った。今夜からの食事をつくりおきたかったのだけれど、寝不足には勝てず、帰宅後…

【ただそこにいること】

2018年6月26日真夏を思わせる陽気に満たされた1日──仕事の現場下見の帰りに、母に会いにいった。ユニットに入り、職員の方に挨拶をすると、最近の母の様子を知らせて下さった。「毎日歌われていて、歌詞の意味も教えて下さいます」〈誰も寝てはなら…

【もう一度、音楽のある暮らしを】

2018年6月21日母が入居している特別養護老人ホームは、全部屋個室となっている。ならば、その環境を活かして、母に再び、音楽のある暮らしを──入居前からそう決めていたことを、ようやく実行した。当初は、使いやすいように、ポータブル型のCDラジカ…