主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと

【父の墓参り2018夏】

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2018年8月6日

今日は月に一度の通院日。この医院に通い始めたのは2014年11月からだから、次に冬を迎えると、もう丸4年になる。

病院にあまりいいイメージのなかったぼくに、その違和感を和らげてくれたのは母だった。付添いで向かったあちこちの病院で、たくさんの素晴らしい先生方やスタッフのみなさんにお世話になることができたからである。

現在の主治医との出逢いは、そうしたなかで導かれた奇跡のようなめぐり合わせだった。今日もこの一ト月の無事を報告して、来月の予約をいただいて医院を後にした。

同じ沿線に我が家の墓を預かって下さっているお寺さんがある。あまりの暑さに目は既に眩んでいたが、今日、墓参りに向かうのはとても良い気がした。

46年前の夏、京都で執り行われた父の葬儀の日は、今日と同じくらいの暑さを感じた日だったかもしれない。京都には盆地ゆえの暑さがある。今の東京は、高層ビル群が海風を遮断するという環境を自ら構築してしまった。その様相は、人工的盆地とも言える──実際にその暑さを記憶できる歳まで京都で過ごすことのなかったぼくに、現在の東京は、刻まれているはず記憶を呼び覚まそうとしてくれているのかもしれない。

31年前、母がこの墓を建てた。あらゆる記憶を手放し続けている母は、自分が入る墓があることだけは今も憶えている。


「もう墓も建ててあるから、あとは呼ばれるのを待つだけや」


そう和かに話すところは、実に母らしい。

この墓は、東京のど真ん中、四ツ谷にある。


「遠かったら誰も墓参りにけえへんやろ」


そうしてこの地に墓を建てたのはいいが、そう言い放った母がほとんど墓参りには行かなかったのだからまた愉快である。

四ツ谷は、東京で我が家が初めて暮らした場所でもある。墓の周辺には馴染み深いお店や建物がたくさんあったが、今でも当時と変わらないのは、スーパーの丸正くらいだ。佃煮の錦松梅のビルはすっかり建て替えられているし、その隣にあったHMVの犬の置物が飾られていたレコード店が入っていたビルも最近建て替えられた。東京の休むことのない再開発のスピード感からすると、この界隈は比較的緩やかな方かもしれない。

母によく連れられていった丸正で線香を買った。レジ係の皆さんは流暢な日本語を話す外国の方々。会計後の現金支払はセルフで行なう仕組みが導入されている。馴染みのレジのおばさんと一言二言世間話を交わすような光景は、この都会の真ん中ではもう無用だ。何より効率的な処理が求められている。


──21世紀、東京──


お供えにビールとタバコを買って、墓へ向かった。


歴史的大ヒットを飛ばしたアニメ映画の影響は今も続いているようで、今日も国内外からあのラストカットに登場した風景を撮影しにファンの方がいらしていた。その微笑ましい様子を横目に、ぼくは無心で寺を目指した。


夕暮れ前──。


静かな時間が流れていた。いつも通り、父が愛したビールとタバコだけをお供えして、そしてやはりまたいつも通り、なかなか点かない線香と戯れながら墓の前でしばしの時を過ごした。

この暑い日に墓に水を浴びせながら思う。


──墓標を残すという風習はいつからあるのか?──


自分のときは、海に散骨して欲しいと改めて思った。ようやく「身体」という器から解き放たれたのだから、また別の器に収まるよりも、生命の原初へ帰る──それを望む自分がいた。


──墓へ来るたび、色んなことを想う──


ほんの束の間でも、こうした静けさに満ちた時間が本当に愛しい。静けさのなかにいると、内なる叡智が呼び覚まされてくるようだ。

次はまた冬に。師走の父の誕生日に、この一年の無事を報告しに来たい。


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