主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと。そして、それからのこと。

【母が命を閉じた日から一年──悲劇のあとの奇跡(1)】

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2022年12月2日

秋口から受け始めていたグリーフケアの過程で、担当医師から紹介されたオンラインによるグリーフケアに参加することを決めたのは、10月の中旬だった。その頃のぼくは、このままでは自分の身が大事に至ってしまうのではないか? という不安と恐れに駆られていた。母を喪った一ト月後に、突然に襲われた元婚約者との死別──それから9ヶ月が過ぎて、仕事や日常の気ぜわしさで目を背けることにより紛らせていた悲嘆感情が再燃し始め、さらに酷くなっている兆候を感じていたからだ。


──誰かを頼らないと危ない──


秋を迎えたころ、ひとり自宅のソファーに仰向けに横たわり、激しく筋肉を強ばらせながら泣き続ける時間が続いていた。その力の掛かりようは、自分の身体を破壊してしまいそうなほど強烈だった。

この状況から抜け出そうと、ぼくはひとを頼った。知人である医師に相談し、ぼくが望む形でのグリーフケアを受けられる医療機関を探してもらった。グリーフケアを展開している機関やサービスは様々あるのだが、ぼくが希望していたのは、医療機関での受診だった。それは、万が一、悲嘆感情がより強まったときに、即、投薬などの処置をしていただける──そうした、いざというときの備えがある環境下でのケアを望んでいたからだ。

初回のケアを受けた際、オンラインでの取り組みとして、死別体験を持つ方が参加されるグリーフケア研究があるというお話を伺った。「研究」と銘打っているのは、大学機関が主催するものだからだ。日本には、グリーフケアに関する研究報告が少なく、また死別体験に対応するためのノウハウも少ない──その問題を解決するための研究として行われているグループワーク、という位置付けらしい。パンデミック下で定着したオンラインミーティングシステムを活用して実施されるということで、場所を選ばず参加できるという。

お話を伺ったときは、「タイミングが合えば参加したい」という程度の気持ちだっ方が、あまりに悲嘆感情が酷くなってきたことをきっかけにこの話題を思い出し、いただいた情報へアクセスしてみると、初回の開催日が間近に迫っていた。すぐさまメールで問合せをだし、担当者とのオンライン面談を経て、その場で参加を決めた。


──毎週日曜日の午前中に2時間、全5週間のプログラム──


ちょうどその最終回となる11月20日は、死別した元婚約者の誕生日の2日後であったことも、参加を前向きに考えられた要因のひとつだった。

それは、11月18日の誕生日当日、彼女が足繁く通ったレストランで生誕祭を催すことに決めていたからだった。


──ぼくが彼女のためにできることの最後のひとつ──


そうした強い想いを携えてその場を計画していたこともあり、大きな役割を終えた直後に、グリーフケア研究の最終日を迎えられることは、このうえない見事な流れ──そう自然と感じられたのだ。

そしてぼくは、その最終回の機会に、思いもよらぬエンディングを迎えることになった。それは、自分でもまったく想像し得ない結末だった。もちろんそれは、喜ばしいものだった。当時、未だ悲嘆に暮れるなかで、未来への希望を見出しつつある自分がいる──そう感じさせてくれる言葉を、自分の口から発することができたのだ。

その出来事を経て、ぼくの悲嘆は、さらに一段と和らいだように思えた。その心情の変化を、グリーフケアを引き受けてくださった医師に報告したい──そのためのに、記憶に刻まれたこの日、予約を入れたのだった。

そして同時に、ぼくはここでグリーフケアを一旦、終了しようと決めていた。母が命を閉じた日は、その決意表明をするのに最も相応しい──そう思えた。

ところが、である。予約当日、ぼくは結局、受診することができなかった。

病院へ到着して受付をする際、体調確認の問診検査がある。検温をすると微熱があることを示す数値がでた。

平熱が高いぼくが、その日、寒さ対策として厚着をしていったせいではないか?──そう感じるも、発熱の理由が定かでない状態で入館を望むような思考はぼくにはない。

今日はこのまま帰宅しよう。そしてPCR検査を受けてから再訪しよう──帰り支度を進めながらそう考えていたところ、担当医から電話があり、ある提案があった。


──当院の発熱外来でPCR検査を受けて行きませんか?──


願ったり叶ったり、である。

その後、本館から道路を挟んで離れた場所にある別棟に設けられた発熱外来を案内された。


「陽性の場合のみ、当日中に担当医からお電話します」


とのこと。その日、電話が鳴ることはなかった。

今日、予定した通りに事は運ばなかったが、思わぬかたちで、ひとの親切心に触れられた気がした。これもまた、ぼくが自分の口から発した〈望む未来への前兆〉のひとつなのかもしれない。


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