主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと。そして、それからのこと。

【初盆に届いた母からのサイン】

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2022年7月17日

先立った婚約者を悼むための場所がある──そこに今夜もやはり向かうことにした。

いつものようにひとりで向かう予定だったが、偶然、というよりむしろ、予め決められていたのではないかと思うほど自然に、その場に友人が合流してくれた。

身体も心も、そして魂さえも凍えた、あの大雪の日の悲劇──婚約者の終を見守った一週間──を遠隔で支えてくれた友人だ。パンデミック下の2年半の間、この日を含めて会うのは3度目となったが、思えばそのすべてが、母と婚約者の終に関連してのことだった。

人に会うと、話を聞いてもらえる有り難さを感じつつ、その話に終始してしまうそうになることを心苦しく感じる。そのため、なるべく慎むようにしているが、堪えきれない時間が訪れる。今日はまさに〈そのとき〉だった。


──あれから半年が経った──


これからの未来を確信していたからこそ、慎重に慎重を重ねて過ごし、辛抱の極点を何度味わっても耐え抜く──そう誓ってまさにそれを実際に果たしたパンデミック以降の時間を振り返ると、もう少しで希望の糸口が掴めそうになっていただけに、その衝撃を何倍にも感じてしまっているのかもしれない。一ト月の間にふたつの死が重なったこともそうだ。そのあまりに残酷な展開に、ぼくは完璧なまでに打ちのめされてしまった。


──この衝撃で絶命させられてもおかしくない──


事実、近親者の急逝に伴い、脳や心臓に急性疾患が発症するケースが急増するという統計があるそうだ。その現実を想像すると、ぼくがいま生きるだけで精一杯なのは、ごく自然なことでもある。

こんな話を、友人とのせっかくの時間にしていたわけではない。今夜の話は総じて〈縁〉や〈めぐり合い〉についてだった。

そんな流れに導かれるように、記憶が不意に呼び覚まされる展開が帰り道に待ち受けていた。友人を見送るために普段とは異なる駅の方向に進むと、そこは、亡き婚約者と最初に歩いた道だった。

途中のターミナル駅で友人と別れ、最寄駅につくと、時刻は──午前12時3分。

母の命日と同じ数字だった。

ぼくの誕生は、母の命懸けの決断があってこそだった。そのとき母が諦めていたら、ぼくのすべてはなかった。あの歓びも、この悲しみも……。


──この悲劇は、これからめぐり合う大いなる歓びの扉を開ける鍵──


初盆の夜、母からのサインが絶好のタイミングで届けられた──今夜は、そう思うことにした。


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