【むき出しになった真の悲しみ──母と婚約者 ふたつの死(20)】
2022年4月10日
彼女の納骨式に立ち会った。
この日、樹木葬が執り行われ、彼女の遺骨を大地へ埋葬した。
──儀式は、遺されたものの気持ちを静めてくれる──
いつか、遠い遠い未来から今日のことを振り返る日を迎えることができたら、この日が明らかな転換点だった──そう懐かしく思い返せるようになるのかもしれない。
だが今は、彼女の不在と喪失をより色濃くぼくに知らしめただけだった。
この日のぼくは、目の前の些細な出来事を一つひとつ積もり積もらせては、自らこころをに傷を負わせていた。そして「また」無意識に、なんでもないように平気を装ってしまった。
きっと反動の現れだろう。その夜は強く身体がこわばり、一睡もできずに朝を迎えた。
──こころの奥底から抉り出されてしまわないように──
剥き出しにされると太刀打ちできなくる真の悲しみが露わにならないように、身体が必死に抗っているかのようだ。
怖れることなく手放してしまえば楽になるのだろうか? それとも、もはやこの悲しみさえも手放してしまうことに怯えているのだろうか?
窓辺から鳥たちのさえずりが聴こえてくる。彼女もこの床で眠り、この声を耳にして目覚めを迎えていたに違いない。
生前の彼女が暮らした部屋には、もう思い出せなくなっていた彼女の香りが未だに満ち溢れている。その香りに触れると、ぼくはあの愛しい毎日の甘美な記憶を呼び覚ます。そしてその記憶は、ぼくを瞬時に過去へと引きずり戻し、命を落とさない程度のゆるやかさでぼくのこころを締め付け続ける──想い出という名の檻の中で。
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