主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと。そして、それからのこと。

【果たされたわが使命──母と婚約者 ふたつの死(22)】

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2022年4月17日

また酷い抑うつ状態に陥っている。

彼女の納骨式に立ち会う間、亡くなった彼女のことを知る人たちに会えば、その時間は気が紛れるはずだった。ところが気づけば、その時間はぼくに、彼女の不在をより色濃く知らしめることになった。


──この輪のなかに、なぜ彼女がいない?──


母を荼毘に付した日、ようやく兄夫婦に彼女を紹介することができた。骨上げを待つまでの時間、待合室の円卓に4人で腰掛けていた。そのとき、欠けてしまった〈家族のパーツ〉が彼女の存在によって揃えられたと感じて、とても安心したことを憶えている。

これまでなら母が座っていた席に彼女が腰掛ける──彼女がいなければ、ここは空席となり、母の不在を鮮烈にわが家へ知らしめたことだろう。知るはずだった家族の悲しみを和らげてくれたのも、彼女の存在だった。

母を喪いひとりになるぼくの身を案じてくれていた義姉は、ぼくの傍らに彼女が寄り添ってくれている様をみて、涙を流して喜んでくれた。その涙が、こんなにも早く別れの悲しみに変わってしまうだなんて……。

東京の暮らしにも、ぼくを気遣って集ってくれる人たちは大勢いる。その輪のなかに身を置けば、その時間だけは〈彼女の不在〉をいくばくか忘れていられる。だが、そこから離れた途端、再び〈彼女がいない現実〉に引き戻されてしまう──先の納骨式を終えてから、その〈不在〉という感覚が再び呼び覚まされてしまったように感じる。

そして遂にはもう、今は何も出来なくなってしまった。


──ノックアウト──


悲しみに打ちのめされた──納骨式のあとそう感じたのは、まさしくこの状態のことを指す。それがどれだけの衝撃を伴った幕切れだったのか? 自分でも未だよくわからない。あふれるてくるのは苦しみと悲しみの感情だけ。再起を期して──いや、この状況に〈適応〉するために、自らの内側と外側から〈言葉〉を見出そうと努めるも、ここ数日は起き上がることさえ億劫になるほどの状態にある。

こうして今夜も横たわりながら、毎夜ごと、同じことを考える。


──ぼくは母と彼女を安寧の彼方へ送るために生まれた──


ぼくはもう、この世での使命を果たしたのだ。だから、これからは余生──晩年の母がすっと口にしていたとおり、ぼくも胸を張って宣言しよう。


──人生、思い残しなし──


大切なふたりの女性を無事に見送ったのだ。これ以上の務めはない。だから、思い残すことは、もうない──そう言い聞かせている。

たが、遣り残していることは、まだある。

〈悲嘆による重傷〉から未だ復帰の兆しがない夜──今はただひたすらに、それを完遂できることだけを希っている。


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