主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと

【絵画のような空】

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2021年6月29日

いくら梅雨空だといっても、最近、あまりに劇的な空模様をよく目にする。今夕も近ごろよく見かけるような空にまた出会した。延々と連なる雲の行くえを視線で追うも、距離感が掴めない。なぜだ?


──拡張と縮小──


どういうわけか、それらを同時に覚える光景に見える。立体的でもあり平面的でもある。目に見えている図は3次元のはずなのに、2次元である絵画的な構図に思えてしまうのだ。エアブラシで丹念に描いたような雨雲が連なっているからだろうか。

そして、同時に予感めいた感情が湧いていることに気づく。


──こんな空の記憶は、ない──


夜になると急に強い雨が連日のように降り続いている。今夜もまた、アプリの通知が鳴った。


──夜になると連日──


そんな記憶も、あまりない。

ただきっと、思い出せないだけ──そうに違いない。

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【2009年】

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2021年6月27日

朝、居間の壁に掛けたカレンダー表示付きの時計に目をやる。すると、電池切れになったらしく表示が消えていた。

こうした電化製品は、とても少ない電力で動作するのか、電池交換サインがでようと、そのまま使い続けることができたりする。この時計もまさにその類で、もう何年もの間、電池交換しないまま動作してくれていた。

気づくなり電池を取り出して、即座に充電を開始。
数時間が経過し充電を終え、フル充電された電池を戻すと、カレンダー表示は、2009年1月1日となった。


「そうか、2009年の元旦は、大安だったんだな」


その瞬間に、当時の記憶が次々に蘇ってきた。2009年は、自身の創作に明け暮れた年だったから、特によく憶えている。

年の始まりはいつもと変わらず、何の予定も決まっていなかった。2003年以来の個展も突然に決まり、慌てた準備は苦難続きで、「なんでこんなことばかり」と、思うように運ばない毎日に激しく苛立っていた。

そんな不遇続きのなかで舞い込んだのが、台湾へのアーティスト・イン・レジデンスのチャンスだった。当時、38歳──初めてのレジデンス体験にしては遅すぎる(あり得ない)年齢だったが、世界各国から集まったアーティストたちと現地で巡り合ったすべての人たちと過ごしたあの10週間は、まさに奇跡のような時間だった。

帰国してからも勢いは止まらず、年末のクリスマスイルミネーションの仕事へ向けての準備から韓国での作品展示のための交渉など忙しくしていた。その間には、めでたく文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出された報を受けるなど、一年を終えるときには、年始に溢れていた苛立ちはすっかり消えうえせていた。

こうした経験は、それまでも何度もあった。


──辛抱してよかった──


もちろん、そのあとも再び、いや、何度も奈落の底に突き落とされる出来事は続いた。


──きっともう、今度こそ、これが底だ──


そう思っても、まださらに、深い闇があるのだと思い知らされることになった。


──このコロナ禍は、まさに最新の「闇の底」だ──


この一年半もまた、これまで繰り返してきたとおりに、自分に言い聞かせてきた。


──大丈夫。どうにかする──


しかし、何事にも限界はある。ぼくの辛坊強さも、とっくに限界を超えている──そう気づいたのは、この春先のことだった。


──もう一年は辛抱が必要だな──


そう感じた途端、明らかなエネルギー不足に陥っている感覚を覚え、強い疲労に悩まされることになった。昨年中止になった公演を2つ終えて、責任を果たせた安堵感も影響したのかもしれない。

創作の真っ只中で、「もうこの流れは止められない予感」はしていた。特に音楽を仕上げるために音に集中し過ぎると、身の回りのあらゆる音に過敏になる。普段なら気にはならない物音はもちろん、人の話し声から「気配」に至るまでが、全て聴き取れるようになってしまう。ときには自分の呼吸音さえ邪魔に感じることもある。そうなると、自ずと心の余裕が失われていく。加えて、年齢を重ねたことで自律神経の働きも弱りがち・・・そうして作業に追われ眠ることさえままならなくなれば、結果は予想がつく。

感情が抑えきれなくなりそうな瞬間を俯瞰した目線で自覚しながらどうにか自制しようと試み、それが思うようにいかない自分を嫌悪する──ひとり自分の殻のなかで実に忙しない馬鹿げた状態だ──現実逃避することでしかこの思考からは逃れられそうにないが、人と会うどころか、酒を浴びることさえはばかれる日常・・・ただひたすらに明日が再び来ることを信じて不貞寝するしかできることがない──参った。

今にも狂いそうな毎日のなかでどうにか正気を保つには、何より「食」だと、今日は3品、作り置きのための料理を拵えた。その後片付けまでを終えたときである。充電が完了していることに気づいたのは。

ひと息つこうとコーヒーを淹れて、ずいぶん久しぶりに見返したくなって中古で仕入れ直したライブ映像を再生した。


──Steve Vai “Where the Wild Thigs Are”──


自分の世界を生み出し、ときにマニアックと称される楽曲を生み出しながらも、見事なショーマンシップとポジティビティに満ちた創作への姿勢は尊敬に値する。この記録は、バンドに2本のバイオリンを加えた編成で見せ場が多いことはもちろんだが、バンドの仕上がりがピークに達していて、とにかく「音がいい」ことが心地よい。

久々に浴びた名演に呆気に取られつつ、もうひとつ思い出したことがある。


──この作品も、2009年の発表だった──


あれから12年──ぼく自身、かなり進歩しているじゃないか。


──大丈夫。きっとなんとかする──


ここを超えた先に振り返ると、そこには進歩の跡が刻まれているに違いない。


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【自分のワクチン接種券、届く】

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2021年6月23日

遂にこの日がきた。なんだか実感がまだ湧かない。映画のワンシーンのなかにいるような感覚があるが、仮に映画の中だったとしても、ここで放たれるセリフはきっとこうだ。


──これは現実だ──


先日、居住地区の役所が設けたワクチン接種に関する特設サイトを眺めていた。特別なんの期待もなくアクセスしたのだが、よく内容を確認していると見逃せない文言があった。


「基礎疾患のある方への優先接種に向けた事前に申請を受付中」


全高齢者への接種の目処が立ち、次の段へ進む準備が始まったのであろう。

この情報を目撃した数日後、予定されていた毎月の定期受診のため主治医のもとへ向かった。普段の診察を終えたとき、優先接種申請の意思がある旨を伝え、最新の接種事情などを教えていただきつつ、接種に向けた注意事項など確認。さらに、万が一に備えるための対策も指示いただいた。

帰宅して事前申請をネットから済ませた。母の2度目のワクチン接種が迫っているため、それを終えて無事を確認してから1週間後くらいに自分の1度目を迎えられたら望ましい・・・そう願っていたところ、早速、今日、接種券が届いたため予約を始めた。

母の接種のために得た情報で、実施までの流れは既に確認済みだったため、希望通り、最寄りのクリニックで接種を受けようと電話するも、既に当分先まで予約が埋まっているとのことだった。そこで、ネットから集団接種会場の予約を取ることにした。

近場の会場は、学校施設を利用しているケースが多く、週末のみに日程が限られるらしい。希望地域と最短で受けられる日付を入力するも、既に埋まっているのか候補さえリストに上がってこない。仕方なく、1日ごとに候補日をずらして検索を続けると、意外にも3手目で候補会場がヒットした。それでも最短で受けられる会場での残りの枠は、既に1桁だった。

その中から、選べる時間帯を選択し、予約はすんなり完了した。念のためスクリーンショットを収めたのはもちろんだが、即座に登録メールアドレスへも確認の内容が送られてきた。

結果的に、日付も時間帯も、最も理想的な条件となった。あとは当日に至るまでに、体調を整えること──それに尽きる。

これまで、過ぎるほど厳格な感染予防対策と、過剰なまでの行動制限を自ら行なってきたゆえ、既に「辛抱」の限界を超えてしまっている(ぼくの「辛抱」は「我慢」とは異なるものと自覚している)。

ここ最近の不調の一因は、まさにその「限度」を遥かに過ぎてしまったことによるものだと思われる。


──よく寝て、よく食べて、よく笑う──


未だ健在らしい母の笑顔が物語っている通り、「笑う門には福来る」──それをもう一度、目指していく(母には一年半近く顔を合わせていないが施設からの報告で確認している)。


──今日もまた目が覚めて、生きている──


何がなくとも、ただそれだけのことを至高の幸運として、純真な心で感じられるようになるときまで。


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【母のワクチン接種/1回目】

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2021年6月2日

今日、特別養護老人ホームに暮らす母の、新型コロナウィルスのためにワクチン接種が行わる予定になっていた。接種は、「当日の体調次第」となる旨、予め確認の連絡があったが、予定通り完了できたかどうか、今はわからない。

少なくとも、緊急連絡がなかった事実から想像すると、接種が実施されていたとしても副反応はなかったと考えられる(万が一の場合の処置体制を整えた上での接種になることも事前に伝達されている)。

もし何らかの事情で接種が見送られていたら──いずれにせよ、何も連絡がないのであるから、母は今もこの世に留まっていることには違いない。

この接種には、注射針を挿入するのには痛みを伴うそうだが、そのときの母の表情が思い浮かぶ。もう会話は出来なくなって久しく、言葉による意思表現はほとんど不可能になっているのだが、そんなときばかりはきっと反射的に声を上げているような図が浮かんでくる。


──「イタイ」──


大阪生まれの関西弁ネイティブスピーカーらしい「あのイントネーション」まで思い浮かぶ。

母を在宅介護していたころ、ぼくが足の指の爪を切っていた。永く生きた証か、母のそれはかなりの巻き爪になっていて、ニッパーと似た形状の動きを精細にコントロールできる爪切りを用いても(かつ、ぼくの器用さを持ってしても)、痛みを伴う場面を避けられなかった。そんなときに何度も聴かされたあの音が、今、イヤーワームのように耳のなかをこだましている。


──「痛みは生きている証」──


これは、ぼくが常套句としていた、痛みを訴える母への言い訳だった。

接種券は、自宅にもおくられてきたが、居住地区の介護施設には、役所から別途、送られているそうだ。しかし、手元の接種券は、施設で接種券できなかった場合に必要となる可能性があるため、念のため保管しておくよう指示を受けている。

このウィルス危機に関わらず、ぼくに明日が無事にやってくる保証はどこにもない。年齢的にも、いつ何がおきてもおかしくはない世代だ。ゆえに、別に暮らす兄に連絡を入れ、接種券の保管場所を伝え、もしものケースが生じた場合の対処をお願いした。


──母は大胆でありながらも、非常に慎重だった──


その姿を、家族の中で誰よりも永く側で見てきたから・・・この時期に挑む厳格過ぎるとも思われる姿勢──目的のためなら他のすべてを手放す──は、その影響と言えそうだ。ここでいう「目的」とは言うまでもない。


──無事にこの危機を越えていくこと──


それに他ならない。

2度目の接種は、3週間後。それを終えて夏を迎えるころには、ぼくの番を迎えられるだろうか? 三重基礎疾患ホルダーゆえ、今も慎重に慎重を重ねている。

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【自律神経が留守の間に】

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2021年5月29日

確か前日に目覚めたのは、夕方5時──その日も朝、だいぶ日が高くなってから眠りに就いたような記憶がわずかに残っている。今日も気づけばすっかり朝を越えて、昼に迫りつつある時刻だ。

目前の作業は佳境を迎えている──1時間という長尺のプロジェクトの映像記録のための音声調整──苦しみはおろか、喜びさえも感じない、まさに「恍惚とした」ときの流れに身を任せながらいくつかのバージョンを仕上げると、データ書き出し、およびアップロードに数時間が掛かることが判明した。


──ならばパンを焼こう──


待ち時間が多いときはそうするに限る。久々に型に入れて、山高のイギリスパンにすることにした。今回も全粒粉100%。好み通りのだいぶ硬めの仕上がりだが、噛むほどに甘みが感じるられる。


──嗚呼──


焼き上がりをひと口頬張ると、「美味しい」とさえ表現する前に、思わず声が漏れた。この感覚を言い表す適切な言葉は思い浮かばないが、ぼくなりの表現をすればこうだ。


──脳が歓喜する味──


データのアップロードを確認したところで、時刻は既に16時目前・・・ZONEを漂った代償か、我が自律神経はどこかを彷徨ったままらしい。今日も高鳴る気持ちが鎮まる気配はなく、目覚めてから、かれこれ24時間が経とうとしていた。

しかしこんなときこそ、このパンが役に立つ。


──安全の睡眠導入剤──


ふた切れ食べたらほら、もう緊張が緩み始めた。

少し眠ろう。


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【予期しなかった代理サイン】

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2021年5月4日

新型コロナウィルス感染拡大、第4波──。

母に代わってこの書類にサインしたのは、2度目の緊急事態宣言が解除されたあと、4月に入ってまもなくのころだった。それから一ト月と経たないうちに3度目の発出──こうして刻一刻と、日本の歴史が刻まれていく。その結末がどうなるかさえわからぬままに。

これは、高齢者へ向けたワクチン接種のための承諾書である。リスクについての説明および副反応などがみられた場合などの緊急事における対処を受けることを承諾するためのものだ。母は、この1年ほどの間に、言語による意思の疎通がほとんど取れない状態になった。それゆえに、身元引受人として入所時の契約でサインしているぼくのところへ書類が送られてきたのだった。


──「これが最後の契約ですね」──


母の介護にまつわる代理人としてサインをするのは、特別養護老人ホームへの入所時が最後になるはずだった。

担当してくださった職員の方からこの言葉をかけていただいた2018年冬の時点で、介護者として丸6年が経過していた。

在宅介護に孤軍奮闘していたころ、あらゆる介護サービスを受けるために、幾度となく契約書にサインをしてきた。身体機能維持のために理学療法士の方に家に来て指導いただく訪問リハビリをかわきりに、より積極的な身体機能向上を目指し病院へ定期的に通う通所リハビリ──仕事の都合で家を空ける際に母を預けるためのショートステイサービスとの契約は、個室を希望する母のリクエストに応えるためや希望した日程に空きがない場合に対応できるよう、最終的に数社と結ぶまでに至った。特別養護老人ホームへ移る前には、在宅介護へ戻れることを期した最後の機会として、集中したリハビリが行われる介護老人保健施設へも入所した。

その間、体調を崩して入院する事態が発生すればサイン、症状によって処置や手術が必要となればまたサイン──。


「判子を押すたび利益がでる」


高度経済成長期に時流に乗った母は、かつての自分が経験した出来事を思い返して我が家の苦境を笑い話に変えようとしてくれていたのだろう。ぼくもそれに応えるように、「これで万事解決」と祈るような気持ちでサインし続けたが、出て行くものはお金だけではなかった。ぼくの体力、気力、そして何より──時間だ。

あのころ喰らった火種をどうにか発火させないようにこれまでしのいできたが、この状況に陥ったいま、鎮火させる確かな術が未だに見当たらないままだ。それはまるで、今なお明確な戦略、方針が見出せないこの国の慌てようとまったく同じと言えなくもない。

既に高齢者向けに始まっていると言われるワクチン接種だが、母の元へは届いているだろうか?

サインするにあたり、あらゆる可能性を想像した。介護者として老いゆく母と向き合うということは、自ずと命に関わる問題に対して選択を迫られることになる。これまでの数々の選択と同様に、母とぼくの「2人のための選択」になるように──。

万が一のことを考えれば、悔いが残るようにも思えた。しかし集団生活をする施設に身を置く母である。我が家のことだけ考えての判断はできない。ましてや、母の世話を施設に職員の皆さんに託している身分だ。その方々の安全も熟慮する必要がある。

最初から、選択はひとつしかあり得なかったのだ。これまで重ねてきた選択と同じように──。


──無事を祈る──


結局、ぼくにできるのは、いかなるときもそれしかないのだ。


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【大仕事を終えたら、いつだってぼくは、パンが食べたいのだ】

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2021年4月27日

「頑張ったご褒美に」なんて思考があるうちは大成しない・・・と、かつてどこかで読んだ気がする・・・そんなことを、昔にも書いた記憶がうっすらある。

自愛の心を高めて行くことがこの危機を乗り越えるためには欠かせない──そう結論した2020年の気づきを、今日は躊躇わずに実践する。この宇宙で、唯一、思い通りになる(はずの)存在である自分自身が、こんなとき、自分に優しくせずにどうする? という、究極の言い訳(または屁理屈)を見繕って、作業に着手した。

しかし、この状況下に買いには出かけたくない。

そこでピンッ!と思い出す。使いかけの全粒粉があることを。

過去に何度かチャレンジした全粒粉100%のパン。肝は、酵母と水分量、そしてオーブンの温度設定および焼き時間であることを何となく掴んで以来、作っていなかった。その頃に仕入れた粉が、しばらく眠ったままになっていたのだ。今日の業務は、指示待ちの時間がある。その合間に挑んでみることにした。


嗚呼──もう言葉にし得ない出来栄えだ。


水分が粉とほとんど同量ゆえ、一次発酵が終わった後の生地は、ふ饅頭を思わせるトロトロつるつるの姿になる。ボールに材料を入れたら、ゴムべらを使ってまとめていくだけで、手ごねして硬くしないのもコツのようだ。おかげで手もほとんど汚れない。二次発酵前、バター代わりにオリーブオイルを入れて全体を馴染ませたら、もう一度発酵モードに設定したオーブンへ戻す。完了後、締まりのない怠けもの体型のようなユルユルな生地が出来上がるが、多めに入れた酵母のおかげか、気泡が中から生地を押し返し、チューイングガムのような膨らみがいくつか発生していた。

打ち粉を少々。手につかない状態を確認して適当に6分割して丸め、先日ヒビが入って現役を退いたガラスの急須に付属していた茶こしで粉を振りかける。このときちょうど、比較的低温に設定したオーブンの予熱が完了した知らせが鳴なった。

焼き時間も30分と、いつもより短め。途中、芳ばしい香りが立ち込めたころで庫内の様子を確認すると、自然に裂け目が現れ、勝手に期待感を演出してくれていた。

焼き上がり──塩を抑え目にしたゆえ、そのままだとだいぶ物足りないが、オリーブオイルと岩塩を合わせたものを塗っていただくと、もう欲望を抑えられない味わいとなる。

この後の出来事は、言うまでもない(反省)

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