主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと。そして、それからのこと。

【母の誕生日に】

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2018年1月17日

 

1月17日──母の誕生日。今日で85歳。

 

「誕生日、おめでとう!」

「えぇ? 今日やったっけ? 忘れてたわ」

 

いつもの調子で始まる面会は、会話になるときもあればならないときもある。最近は顔を合わせると

 

「来てくれてありがとう」

「ここに座って景色を観ていると時間が直ぐに過ぎてええわ」

 

 

それを繰り返し伝えてくる。

 

「今日の誕生日も生きてくれていてありがとう」

「景色を観て1日過ごせるなんて、殿様みたいな暮らしでいいね」

 

そう応えながら、嫌味や無理なお願いを言わない母の気質をありがたく思った。

 

「なんで毎日来てくれへんねん」

「一人でなんでもできるから家に帰りたい」

 

いつそう口にし始めるか、ずっとこのままでいられるか…それは誰にもわからないけれど、わずかな時間でも、こうして穏やかにしていられること以上に望むものはない…そう強く思った。

 

今日、元気で無邪気な母の表情を見つめながら、はっきりとわかったことがある。

 

この1年、自分に言い聞かせるように言葉を重ねてきたけれど、ぼくは今も、母を喪う不安に駆られている。心の揺らぎを抑えつけるように理屈をこねては、感情を受けとめるのではなく「解釈」しようと努めていた。

 

どこかでそう自覚しながらもそれを認めず、苦し紛れにあらゆる時間と空間に逃げ込む。

 

 

──母は、ぼくが在るべき姿を今も見せてくれている──

 

 

そんな気がした。

 

それをしっかりと受け止めたい。

この手に触れていられるうちに。

 

 

「大きくてあったかい手やなぁ」

 

 

いつからか、部屋を発つときに毎回握手をするようになった。

 

今日の母は、いつものその言葉を口にしなかった。

 

 

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