主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと。そして、それからのこと。

【母、特別養護老人ホーム、入居決定】

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2018年4月14日

あれよあれよという間に、状況が進んでいく──。

幾度繰り返しても未だ止むことのない放蕩──その現実から目をそらすように、午後の曇天の空を見つめながら、うつらうつらと居間で横たわっていた。

この疲れは、どうやら放蕩によるものだけではなさそうだ

 

──多眠──

 

そのせいか、このところ、綴るべき言葉が見つかりにくくなっている。

手から滑り落ちたまま放置した携帯電話のバイブレーションが、床に反響していつも以上にうるさく鳴り響いている。


──土曜日の夕方に、誰がぼくを必要としているのだろう?──


そんな相手はいるはずもない。いまは深夜に訪れる創作ハイタイムに備えて、心身を休めるとき──そう思いながらも、虫の知らせのようなものを感じて、携帯電話を手に取った。

既に着信は鳴り止んでいたが、履歴をみて、納得した。

伝言を確認し、折り返し連絡を入れた。


──伝えられる内容に耳を澄ます──


母の特別養護老人ホームへの入居が決まった。

先日の内見時、担当者から案内された今後の手続きの流れなどを再度確認し、手短に礼を伝えて電話を切った。感情を抑えたまま、至って普通の、立派に社会性のある対応ができたはずだ。


──束の間の静寂──


静まり返った居間で、ぼくはひとり立ち尽くしていた。言葉にならない感情が湧き上がってくる──。

何をするためでもなく、台所に移った。そのあとのことはあまり憶えていない。ただいつものように、込み上げてくるものに従うほかなかった。


──それは何に対するものなのか? 誰に向けたものなのか?──


訳など必要ないというのに、あのときの気持ちに向き合うために、理由が欲しかった。

しばらくぼんやりしたまま、考えていた。

母は、望んだわけでもなく、終の住処に移り住む。母が愛したこの家を離れて…。


──母は、大切なものを手放さなければいけない──


ぼくにはもう、母にしてあげられることがなにもない。

ならば、せめて、大切な何かを手放す必要があるのではないだろうか?

母が一つひとつ、大切なものを失っていくというのに、ぼくがすべてを手にしたままでいて許されるはずがない。ぼくの今の在り方が違っていたら…世の中の親が喜ぶことを叶えてあげられていたら、母はずっとこの家にいられたかもしれないのだから。


──何を手放すのか?──


それは、改めて問うまでもないことだった。


もしかすると、心のどこかで、そのことについてずっと考えていたのかもしれない。


──そのときが近づいている──


と…。

今日の連絡は、ぼくへの最後通告のようなもの。言い逃れのできない理由にするには、このうえない。

今年の梅の季節、街を歩きながら突然に、多幸感のような感覚を覚えたことを、今、これを綴りながら思い出した。


──この瞬間にすべてを終えてしまっても構わない──


ぼくが生きるために必要なものは何か?

今一度、みつめなおすときがきている。


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