主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと。そして、それからのこと。

【休めのサイン、再び】

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2018年10月22日

母の退院の日──午前中は自分のための定期検診に向かって、先週の検査結果を踏まえて主治医と今後の方針を検討した。

そのときから鼻がぐずり気味だったのだが、きっと鼻炎のせいだろうといつもの処方薬を飲んで対処した。しかし、一向に改善の気配がない。珍しく、くしゃみと鼻水が止まらなくなった。

午後、そのまま母が入院していた病院まで向かい退院手続きをしたころには、くしゃみと鼻水を必死で堪えなくては過ごせないほどになっていた。


──風邪か?──


もうひとつふたつ用事を済ませてから帰宅したかったのだが、これは身体を休めるサインだと察して、自宅最寄り駅で下車した。

未だ熱はないようだが、単に身体が冷えているだけかもしれない。心身ともに温めて、今日はゆっくり休もう。

所沢駅には、「狭山そば」と看板を掲げた駅そばがある。母を見舞いに行くたび食べていた。いつもは春菊天に山菜を加えたものを頼んでいたが、鴨肉や季節限定・舞茸天などを時折追加したりしていた。

今日でしばらく食べおさめ。次はどの季節にここに来ることになるだろう?


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【人生をしまう速度──あれから1年が過ぎて】

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2018年10月21日

機上から見た富士山──。

いつからだろう? 移動中はまったく眠れない質だったぼくが、今では完全に寝入ってしまうようになった。特に帰りは熟睡してしまうことがほとんどだ。無事に現場を終えた安堵も手伝っているのだろう。

昔は通路側の席を好んでいたけれど、眠るなら窓側がよいということを近頃痛感している。飛行機の窓辺は、ちょうど頭をもたれ掛けるのに都合のいいカーヴを描いているからだ。そして、機内サービスの誘惑に負ける心配もない。耳はお気に入りの音楽で塞がれている──着陸時の衝撃で到着を体感する──そんな調子で、ぼくにとって今や飛行機は、贅沢なゆりかごとなっている。

ところが、今日に限って、途中で目が覚めた。ふと外に目をやると、雲海に浮かぶ富士山が見えた。

去年も珠洲から帰る便から、絶景の夕陽を見た。それが〈WONDER WATER EP〉のジャケット写真になった。

あれから1年──母はすっかり子供がえりを超えて、赤子がえりした。生まれて物心がつくスピードと老いて人生をしまうスピードが同じなら、母が魂だけの存在になる日はもうすぐそこまで迫っている。

母のわがままも心無い言動も言葉の通じなさも、子供の相手をしていると思えばあまり気にならない。


──それでも──


割切れることのない想いが絶えず心中を彷徨う。

明日はいよいよ母が退院して特別養護老人ホームに戻る日。入院は結局、5週間に及んだ。施設に戻ってから、うまく馴染めるといいのだけれど。

気づけば10月15日で、介護が始まってから丸6年が経過したことになる。いよいよ7年目──この1年の間に、何かが起きそうな予感がしている。


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【母、退院決定──2018 秋】

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2018年10月18日

今日のもうひとつの大切な役目は、これだ。


──阪神タイガース 矢野新監督 就任──


金本監督辞任の報のときも同じだったが、今の母には、よくわからない、もしくは興味のないことらしい。

今日は、ぼくの顔を見ると「長男?」と訊ねてきた。やはり髪型を変えたのはよくなかったようだ。ますます、誰だかわからなくなってきている。

母の退院が決まった。一度、予定されていた日の直前になって発熱し、延期された。あれから1週間ほど経って、表情も入院前の雰囲気に戻りつつある。

しかし入院のタイミングが悪かった。


──義歯修理中──


歯がないため、食事が上手く摂れなくなってしまった。全て流動食になっていたが、体調も思わしくなかったから摂取量もだいぶ減っていたはずだ。そのせいもあって、また一段と痩せた印象がした。

必要最低限のリハビリをしてはもらっているが、それ以外の時間はベッドの上だ。一度、リハビリの様子も見学したが、自立して座ることはほとんどできなくなっていた。リハビリ担当者に抱きかかえられるように身体を預ける様は、まるで赤子同然だった──日に日に旅立つための支度を整えている──ぼくにはそう見えた。

そんな調子でほとんど横たわっているものだから、踵に一部だけではあるが、いよいよ床ずれも出来始めていた。身体全体の確認を、看護師さんらが行って下さっていて、ベッドサイドには重要な伝達事項を記したメモ書きが都度更新されている──その手厚く見守れた様子は、まさしく赤子返りである。


「老いると、赤ん坊のころと同じようにたくさんのひとに見守ってもらえるね」


そう伝えると、母は理解したのか、未だ変わることのない、いつもの笑顔を見せてくれた。


入院中、愉快なことといったら、母の髪型だ。これも横になっている時間が多いゆえのこと。いつ頃からだったか、母の通院付き添いのときに、携帯用の折りたたみブラシを持参するようになった。それは確か冬場のことだった。少しでも可愛らしくみせようと、毛糸の帽子を被せてあげたのはいいが、院内で脱ぐと、髪の毛が乱れてしまう。


「歳をとったら、身なりの整った格好をせなあかん」


老いて見すぼらしい姿を母にさせるわけにはいかない。それは、入院中でも同じだ。

病院に向かう時に忘れものがないように、始まりの時から専用の鞄を用意していた。保険証や薬手帳、過去の検査データから、汚物入れ、オムツ、ビニール手袋などが入っている──おそらく、育児中の親御さんの鞄も同じような内容なのだろう──その中にはもちろん、あのブラシが今も収めてあった。


──髪をといてあげた──


言葉は一切なかったけれど、撫でられた子猫のように、心地良さそうな表情をしていた。


ぼくがこの世で生を全うする限り、日常のあらゆる機会に、母との些細な出来事を想い出すのだろう。

老いてもなお、大切なことを気づかせてくれる母に、できる限りのことを捧げたい。その想いは、母が魂だけの存在になってからも変わることはないだろう。

嗚呼、しばらくぶりに、母を想い、心が溢れた。一夜一夜、こういう夜を重ねるたび、ぼく自身の支度も整っていくに違いない。

次に会うのは、施設に戻ってからになる。部屋も新しいところに移るらしい。その部屋の窓辺からは、きっと広々とした空模様が見えるはずだ。そのとき、母がどんな表情を見せてくれるのか、今から楽しみにしている。


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【これも求めていた在り方】

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2018年10月18日

 

今日は確か、誰かの誕生日だった気がするのだが、正確には思い出せない。顔も名前も浮かんでいる。遠い昔の友人のそれだった。

 

母の見舞いに向かったあと、病院の最寄駅から結構離れた街に位置するターミナル駅まででた。このところ文字を書くのが楽しくて、新しい万年筆を探しに出掛けたのである。夢中になって探していたせいだろう。帰ってくるとすっかり夕食の時間を過ぎていた。空腹になり過ぎないように途中でナッツを頬張ったおかげか、いきなり食料にむさぼりつくようなことなく、作り置いたものをざく切りの山盛りキャベツの上に乗せて、サラダにした。下準備を済ませて保存していた豚汁にも味噌を合わせていただく──。

 

 

──嗚呼──

 

 

最近の暮らしぶりは、求めていた在り方のひとつだ。全てが満たされているわけでは無論ないが、未だいくつか叶わないことがそばにあった方がいいということなのかもしれない。

 

明日から、今季2度目にして最後の珠洲行き。今年の出張はこれで終わり。いつになく、あちこち出掛けていった気がする。いつか遠い未来に一息ついて今年を振り返ったとき、とても大切な一年だったと思い返すことになりそうな、そんな予感がしている。

 

 

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【創造性を取り戻す】

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2018年10月17日

随分と長い間、〈丁寧に暮らす〉という目標を掲げている。上手くできているときもあれば、全く駄目なときもある──今は、だいぶ目的に向かって順調に進んでいるようだ。

来年の2月を迎えると、台湾にアーティスト・レジデンスに向かってから、ちょうど10年になる。あのとき、創作だけをしていられる3ヶ月という時間を与えていただいて、日々を異国の地で過ごしながら実感していたのは、東京での現実から離れて、あるときから「当たり前」になった〈何かに追い立てられる暮らし〉を、自分の外側から見つめることだった。そしてやはり、この〈丁寧に暮らす〉ことの重要性を日々の暮らしの一瞬一瞬に覚えていた──あの時間の流れ方は、何より心地よかった。


──ならば海外で暮らせばいいのか?──


そう考えることはあったけれど、現地の皆さんの日常を観察するに、そうではないことにも気づいた。


──そこに暮らせば、どこでも日常が現れる──


場所や環境は確かに影響を及ぼすが、それが全てではない。どこにいようと、望むあり方に自分を導いていける──そう信じて東京に
戻った。


──あれから、もうすぐ10年になる──


そのうちの半分以上の時間を、介護者として過ごしてきたかと思うと、やはりそれは、途方もない時間を──命を──注いできたことを痛感する。その時間は大いなる試練であったことに変わりないが、この6年という時間で感じた想いは、これからぼくが生きるために欠かせない頼もしいエンジンになるにちがいない。そしてこれからも、この日々を過ごしたからこそ得られる気づきが連続していくだろう。そう確信している。

一方で、失いかけたものがある。


──大いなる創造性──


この間に仕上げた仕事は、どれも誇れるものばかりだ。しかし、かつて経験してきたような、自分自身から溢れ出る驚きや発見が足りない。これまで培ってきたものをアップデートしているに過ぎず、「できなかったことがやっとできるようになった」という満足感を覚えるところで停滞していたように思う。


──創造性を今、取り戻そうとしている──


そのために、改めて、〈丁寧に暮らす〉ことを心がけている。


──生きることそのものが創作となるように──


2年前、ベルリンで過ごした10日間に感じたことだ。


アーティストはなぜそこにいるのか?
創作とは何か?
なぜ作品を発表するのか?
作品とは何なのか?


──生きること──


それがすべての扉を開く、鍵だ。


そして今日もまた、仕事の合間に料理を──作ったそばから全部食べ尽くしてしまいそうな欲求に駆られる、アボカドの醤油漬けだ。といっても、味わいは和風には程遠い。決め手は最近愛用しているモルトビネガーに漬けられたケイパー。ワインビネガーやバルサミコ酢も入れてはいるが、このケイパーが旨味を増してくれている。熟しすぎない状態のアボカドをただ切って、オイルやビネガーと和えるだけ。実に簡単だ。

こうした直接創作に関係なさそうな時間を過ごしていると、不思議なことにさまざまと思索を巡らせる。これも、母に代わって台所を任されてから気づいたことのひとつだ。そのとき、台湾で感じていた想いが再び呼び覚まされた。


──あれからだいぶ時間が過ぎた──


新しい何かが始まろうとしている。

そんな前兆のようなものをひしひし感じるこの頃である。


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【心身を育む】

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2018年10月16日

心が思考によって育まれるのならば、身体は食が頼りだ。

今夜も仕事の合間に、作り置きを始めた。最近はブロッコリーを生で食べるようにしている。茹でると栄養が損なわれるし蒸すのも手間だからだ。そして、生で食すとよくわかるのが、その本当の味わいである。


「もしかして今、ブロッコリーは旬か?」


外国産より1割程度高い金額を払って買い求めた北海道産のブロッコリーは、調べてみると、まさに今が旬らしい。芯の部分も厚めに皮を切り落として水々しい中心部を頬張ると、あまりの美味しさに目が醒める──こうしたエネルギーが心をも育んでくれるに違いない──心と身体が満たされてこそ、培ってきた技が発揮できるというものだ。

ひじきや蒸した鶏胸肉などの定番に加えて、今日は再び、さつま芋をオーブンで焼いた。見事な焼き色と香ばしい香り、そして絶妙に決まった塩胡椒加減が相乗効果を成して、目から鼻から奥歯から舌から、脳を心地よく刺激してくれる。

続いて、急に思いついて豚汁を作ってみたくなった。先ごろ手に入れた新しい包丁研ぎ器のお陰で抜群の切れ味を発揮し始めた愛刀を手に大根をイチョウ切りにすると、あまりに滑らかな包丁の滑りように思わず嘆息した。ブロック肉もこの包丁で難なく薄切りにして、各具材を鍋に投入。蒸し鶏を作るのに仕込んだ煮干しを混ぜた出汁を隠し味に使い、火が通るまで煮込む。鰹や昆布、鶏の出汁も合わせて、ここで終了。作り置くため、味噌は食す直前に入れる。

明日は珍しく、外部スタジオで作業がある。帰宅したら玄米を炊いて、じっくりおかずを味わおう。


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【笑顔、ふたつ】

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2018年10月14日

こういうものにはまったく興味がなかったけれど──。


笑顔、ふたつ。



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