主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと。そして、それからのこと。

【モノに宿る記憶──介護者生活の節目に】

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2018年12月23日

たしか12月に入ってからだと思う。何かに取り憑かれるように、毎日少しずつ掃除を始めたのは。

特にこの1週間ほどは、超朝型の生活周期に切りわかっていて、それまで眠る時間だった午前4時や5時に起きだしては、まるで作務でも行うかのように集中していた。

大掃除という目的もあったが、始めてみると、やはり節目の年を終えるに当たってやり残したことがあると気付いての行動だったように感じる。


──母の特別養護老人ホームへの入居──


それは、介護者として過ごしたこの6年間のひとつの区切りである。母はこの2年、入退院などが続き家を開けることがほとんどだった。その間に少しずつ整理してはいたけれど、母の帰宅が恐らくもう叶わなくなった今、これまで処分をためらっていたものの整理に着手すべきだと、心のどこかで思っていたのだろう。

そして今日、いよいよその締めくくりとなる場所を掘り起こした。


──母のクローゼット──


クローゼットといっても、物置同然だった。おかげで普段着は収めることができず、寝室に別の衣装棚を設けることになった。ぼくが収納方法を提案するまではひどい有様だったが、この形に落ち着いてからは、自分なりに使いこなせるようになっていた。

ここに隙間なくかけられていた服を、今日、整理してスペースができたクローゼットのなかにすべて収めた。唯一、母が使っていたバスローブだけそのままにした。父の位牌が納められた仏壇の隣に並ぶように。

いつだったか、もうだいぶ昔のことだったと記憶している。このバスローブは、当時ぼくが体調を崩したとき、お世話になっているひびのこづえさんから贈られたものだった。わざわざ寸法を直してくださったのに使う機会がなくそのままになっていたものを、母の入浴介助をするときに活用して、ようやく本来の役目を果たすようになったという一品である。

母は身体の自由が効かなくなっていたので、大きなサイズのバスローブは、とても役立った。特に肩の可動範囲が狭まっていたから、余裕ある大きなサイズは脱ぎ着させるときの負担を軽減してくれた。

脱衣所で脱ぎ着させると、立位で対処しなくてはならず、危険が伴う。そこでベッドでこのバスローブに着替えさせてから風呂場に案内していた。入浴後は、浴室内の手すりにつかまり立ちした状態でバスローブを着せて、寝室のある2階まで介助しつつ上がり、髪を乾かしてから着替えさせる──。

母の身体を洗うのは、はじめとても抵抗があったが、幼いころ、母との風呂の時間を楽しみにしていたことを回想しながら、母に少しでもリラックスしてもらえるようにと願い行っていたことを思い出す。浴槽にもかつぎこむようにして入れていた──入浴介助をしなくなってから、もう2年が経とうとしているだなんて…。

掃除の最中、母が入浴のときに使っていた座高の高い椅子と湯船に取り付けていた手すりがでてきた。いつか、どこかの施設に寄付したいと思いながら、今日も処分できずにいる。使うあてはもちろんないが、クローゼットのなかに収まりのいい場所を見つけて、そっとしまった。

母がたくさんの想い出をモノに宿して手元に残していたように、ぼくも同じことをしている…そんな気がした。


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