【マーラーのアダージョとカジキマグロとシメジのアラビアータ】
2018年3月5日
先月の一時帰宅からおよそ3週間。母の食は、また細り始めている。
前回の経験を踏まえて、今夜はだいぶ少なめにしてみたけれど、途中…いや、だいぶ序盤で「もうお腹いっぱい」と、皿ごとぼくに差し出した。
無理に食べさせるつもりはない。でも…まだ朗らかに笑える母に、口から食事ができるうちに、あと数えるほどしか一緒に食卓を囲めないかもしれないのだから、せめてもうひと口だけでも…。
──どうなっているんだ?──
そんなことを思い浮かべていると、母が観ているクラウディオ・アバドの演奏会映像から、マーラー《交響曲第5番》第四楽章:アダージョが聴こえてきた。
あらゆる映画のサウンドトラックに使われてきた、あのロマンティックでセンチメンタルな旋律が、今夜の記憶と共に、ぼくに埋め込まれていく──。
──嗚呼──
母の一時帰宅の日は、晴れの日ばかりだったのに、今日は強い風と雨が続いている。
窓辺から外を眺めては、雨が降っていることを何度もぼくに知らせてくれる母──さっき観たばかりの映像を「今度はそれをみせて」とせがむ母──演奏に手を叩いては喜んでいたかと思うと、突然無反応になる母──。
こうしてまた、理屈ではわかっていても、目にするのは苦しい時間がやってきた。
「ごちそうさま」
だいぶ残してしまったみたいだ。
よく食べたね。家にいるときくらい、好きなものを満たされるだけ食べたらいいよ。
──ぼくの目の前には、今、ぼくが知らない「子供時代」の母がいる──
こんな風に、口元をたっぷり汚して、食べこぼしもたくさんして…。
「かわいいね」
明日はどれくらい食べられるかな?
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