2018年3月1日
今年も春が近づいているらしい。
編集していた映像の書き出し中に、スタジオの窓辺からお隣の立派な桜の木を見上げた。つぼみは、まるで約束を果たすかのように、元気に膨らみ始めている。
このつぼみを見上げると、たくさんの記憶が蘇ってくる。
──満たされたあの日の記憶──
──喪ってしまったいつかの記憶──
四半世紀以上眺めてきたこの桜を見つめて、初めて、母がいなくなった後のことを想った。
来年か?
2年後か?
5年後か?
10年後か?
それとも、明日か?
まさか、今夜か?
いや、もしかすると、そんな日は、やってこないかもしれない。
──順番を守らずに、ぼくが先立ってしまったとしたら──
こればかりは、誰にもわからない。
最近、気づいたことがある。
今の暮らしは、母が旅立ったあとの様子をシミュレーションしているようだ、と。
仕事と介護、プライベートの狭間でもがき、気づいたころには闇に沈んでいた時代──あの当時から思えば、今の静かな暮らしは、待ちに待った時間だったはずだ。
──思い存分、仕事に集中できる──
かつてそうだったように、すべてを捧げることができる「今」があるというのに、なぜこんなにも、満ち足りていないのか?
創作に没頭している最中はいい。
──「無」──
喜びはもちろん痛みさえも感じない──その概念さえ消失した、まさにこれこそ「幸福」と呼ぶと言える場に、そのときのぼくはいる。
無意識が途切れたあと、意識が再起動してから──この「浮世」に再び舞い戻ってからが、未だ言葉にならない気分に陥る。
──想いを奏で続ける──
自分の表現として、その願いを絶やさずに──それが許されてきた己の歩みに、感謝の念を忘れてはならない。
そして、その歩みを支えてくれたのは、他ならぬ母の存在が大きかったことも。
大切なことすべてをひとつも残さずに受け取ったから──。
あとは安心して旅立てるように、ぼくがしっかりと、この脚で大地を踏みしめていかないと、ね。
さぁ、もうそろそろ、次へ。今日見上げたつぼみと同じように、ぼくも約束を果たすときが近づいている。
今夕、たった今、強い風が吹き始めた──。
春一番、かな?
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