主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと。そして、それからのこと。

【家族がいたいつもの景色】

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2018年2月24日

心のなかが支配されている。階段にうずくまって、頭を抱えたまま──。

母の不在が続いて1年余り。すっかりこの静まり返った棲家が、ぼくの日常になった。

テレビはまったく観なくなって久しい。ラジオは元々聴かない。ネットで見かけるものは断片的で一瞬にして通り過ぎる。そして、音楽も、昔ほど聴かなくなった。

「こんなに静かだったかな?」

毎日毎日そう感じるほど、この家は今、静まり返っている。

特別養護老人ホームの入所面談を3週間後に控えて、改めて、今後起こりうるであろう様々な出来事を想像している。

現在、母が身を寄せている介護老人保健施設は、自宅復帰を目指す方のための場所。それゆえに、まだしっかり会話ができる方もたくさんいらっしゃる。母のたわいもない話に快く耳を傾けて下さるのも、会話に応じることができるから。それでも、特別大きく代わり映えのしない毎日を過ごしてきた母の認知機能は、圧倒的に、そして急速に衰えいる。


──特養に入った場合はどうなるか?──


その状況は、想像に堅くない。


──それでいい──


絶えずそうして、自分に言い聞かせている。こうして今、心が揺らぐ間にも、「これでいいんだ」と自らに語りかけている。


──解のない問い──


例えば、その問いに向き合うことが「生きる」目的のひとつなら、ぼくはいつまでも対峙しよう。

時おり苦しくなって、そっと喧噪の波間に紛れ込んでしまうこともあるだろう。


それでもいい──。


それでもいいから、その問いから目を逸らさずにいたい。

昨日の夜、洗濯物を届けに母のところへ向かった際、いつもお世話になっているフロアのスタッフの方に、特養の面談が予定されている旨、お伝えした。


「川瀬さんはここみたいな賑やかなところがお好きだと思いますけど、ご家族のご苦労を考えると、早く入居できることが一番ですから」


心のこもった優しい眼差しで、そう伝えて下さった。

深々と一礼してエレベータに乗り込み、ドアが閉まるのを待ち侘びた。普段なら「閉まる」ボタンは押さないのだけれど、表情を悟られたくなくて、そのときだけは、その限りではなかった。


3月に予定されている母の一時帰宅も、気づけばもう再来週に迫っている。この、四半世紀見つめ続けた夕景を、ここから母と一緒に見るのは、もしかすると、次が最後になるかもしれない。

たとえその先、ここへ戻る日が訪れても、もう想いは届きそうにない。


「綺麗だね」

「せやなぁ」


ひとつの会話を、ひとつの言葉を、慈しみたい。


いつまでも、いつまでも、その瞬間のことを憶えていられるように。


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