【無常】
2017年6月18日
一昨日昨日と、昨年参加したBankARTのスタジオレジデンスプログラムのオープンスタジオへ伺った。
去年、自分の制作も様子を観てもらおうと、母を連れてここへきたことを想い出す。一年というときは、すべてを変えてしまうには十分すぎる時間だ。
馴染みの広々とした空間で制作に勤しむ同志たちの姿を見るのはいつだって刺激的だ。未だ続く股関節の痛みに加えてこのところまた鼻炎気味で、せっかく聞きにいったアーティストトークも集中できず、少し残念な時間だったけれど、調子を崩してから願っていた「美しい遠景」を拝むことが叶って、密やかに安堵していた。
そしてもうひとつ
──最近ご結婚された友人とばったり再会──
前夜に「直接お祝いを伝えたいな」と思っていたら、もう次の日に叶うという驚きと共に、和やかな二人の表情をみてとても嬉しくなった。
いつもの自虐ネタと嫉妬キャラ満載の冗舌トークでお祝いを伝えられたし、久々に横浜にいるときの自分を呼び覚ました週末…またいつか、大きな自分の仕事場を持ちたい。こんな素晴らしい風景がすぐ側にある場所に。
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【西の空に羽ばたく鳥】
2017年6月17日
「浩介!」
顔を見るなり、今日も母はぼくをそう呼んだ。まだ名前は憶えているらしい。
入居者の皆さんが集う広間がある。母の席は入口から見える位置に準備いただいている。面会にいくと、エレベーターホールから広間に近づいていくに連れて、ドアの窓越しに椅子に腰掛けた母の様子が見えてくる。
まだ扉を開ける前なのに、母は自ずとこちらを向く。きっと人影が見えるといつもドアの方を確認しているに違いない。
──ぼくが来ないかと待ち侘びて──
1週間ぶりの面会だった。そろそろ着替えが無くなるころで、洗濯物を引き上げにいく必要があった。業者任せにもできるのだが、顔を見せにいくためのいい機会だし、少しでも節約したいから…と、洗濯は自分ですることにしている。
母は先週よりもいくらか元気そうな表情をしていた。身体の動きは確認しなかったけれど、椅子に座っている姿勢もだいぶいいように見えた。
──もしかしたら──
自宅復帰の可能性があるのではないかとも想像したが、ぼく自身の体勢を整えないとそれも難しいことだと痛感するこの頃…そこへきて身体の具合が全快ではないというのが悔やまれる。
今日、少し長めの時間、外出をした。移動は車を使い極力無理の掛からないようにしていたけれど、帰宅すると、また痛みがぶり返してくる。
若いころからながらく痛みに耐えてきた身としては、こうなってしまうと時間が掛かるのは十分承知のうえだ。だから焦ってはいないが、時折走る強めの痛みは、どんなときも無条件に心身にダメージを喰らわせてくれる。
──遠景を眺めたい──
自宅で過ごし、手元ばかりをみているせいか、老眼も進み気味だ。いま叶うのはこの窓辺からの景色だけだから…と、ぼんやり遠くを眺めていると、西の空に向かって鳥が羽ばたいていった
「ぼくにもそのときが近づいているようだよ」
時を捧げよう。そのためにすべてを変えたのだから。
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【もしも願いが叶うなら】
2017年6月13日
松葉杖で両手が塞がってしまうこんな体調のときにも、自然はいつも変わらず自然にことを進めてくれる
──梅雨入りしてしまった──
それでなくとも、日常生活で手が空かないのは実に困ると痛感しているこのごろ。
いつもはポケットに入れている電話や財布は、身体を必要以上に動かしてしまう今、パンツをずり下げるのに大活躍だ。両手が塞がっているから正すのも即座にはいかない。
ならば背負った鞄に入れてみると、今度は取り出すときに面倒になる
──何かいい手があるはず──
と、そこで思い出した
──何の目的で手に入れたのか思い出せないポシェットがあることを──
母の手を引いて歩くときに、やはり手が塞がらないように…と思っていたのだろうか?
一昨年の年始までは、ぼくの腕にしがみつけばまだ歩けていたから、何度か新宿の百貨店まで出かけた。新宿で暮らしていた母の黄金時代によく通った馴染みの場所で、頭と身体の体操を…と期して
──今日、老人保険施設のケアマネジャーから連絡があった。先の担当者会議で相談を受けた通り、あらゆる工夫をしていただいているようだが、相変わらず主食を食べないそうだ。
入所後3週間で3キロ減量して、まもなく大台に迫っているという
──何度も繰り返して自分を言い聞かせる──
これは、そのときのための支度を母が始めたんだ──
「きっと、そこへ通じる入口は細くて小さい」
「空高く舞うには身体も軽い方がいい」
ぼくの誕生と入れ替わるように先だった父を看ていた母が話してくれたことがある
「こんなところまで肉が落ちるんやね」
末期、痩せ細る父の表情をみて思ったそうだ。
その様子をぼくは観ていないはずだけれど、このところ痩けてきた母の頰をみると、45年前に母が見つめた影が浮かんでくる。
冗談交じりにそんな話しを母にしてみても、相変わらず、いつもの調子で和かに笑うだけ──
この先、症状が進んだとしても、この朗らかさだけは保てるといい。
よく笑う母だから、どんなことがあろうと、笑顔だけ遺して解き放たれて欲しい──
もしも願いが叶うなら…。
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【それだけでぼくは満たされる】
2017年6月8日
親切気をたくさんいただいた日──。
母が施設内で発熱したため、大事をとって外来受診に向かった。朝9時に出発して帰宅したのは15時過ぎ…疲れ知らずでは帰宅できるはずもない。
母は車椅子、ぼくは松葉杖を使っている状態なことに加えて、向かった先が介護施設と医療機関ともなると、気配り目配りに満ちている。いや、実際はそんなこともない。「そういうところにお勤めだから」といって、気づかない方もたくさんいることを嫌というほどみてきたから。
32年ぶりに使うことになった松葉杖は実に便利だ。痛みの軽減はもちろん、足を引きずるようにして歩くより圧倒的に速く移動できる。
だがしかし、問題は両手が塞がってしまうこと。今日は施設から病院まで送迎車をお願いすることにしたのだが、院内は当然、母の車椅子を押さないといけない。そのため、片方の松葉杖は施設に預けて向かった。
幸い、母の車椅子が片側の松葉杖代わりになってくれる
──二人一脚──
二人でどうにか一人分、歩けているような感じ。
総合内科にて、詳細な問診を受けるも、この2年ほど母は何を訊かれても「大丈夫」としか応えないため、ぼくが状況を説明する。母の様子については離れて暮らす家族と共有しているのだけれど、やはりぼくがいないと、正確な診察は受けられそうにないと改めて痛感した
──まだここに留まるべきなのだろう──
その波に乗ったと直感したあの挑戦が叶わなかったわけがわかった気がした。
幸い、尿路感染の再発も肺炎もなく(75歳以上の高齢になると肺炎は重篤化しやすいらしい)、まずは一安心。
終始ぼんやり気味なのに、急に何かに興味を示したかと思うと誰彼構わずその話題を始める母…今日は、綾小路きみまろさんのポスターを見つけて、看護師さんや病院職員の方に
「わたしあのひと好き(大阪のイントネーションで)」
と繰り返していた
──子供がえり──
人の一生は、こうして放物線を描くように、いつかまたもとの地平に着地する。
人の話を遮るようにして思いついたことを脈略なく話し出すことが増えてきたころ、ぼくは母の脳内に何が起きているのか気づけず、都度、苛立っていた。そうした振る舞いを正しく躾けてくれたのは言うまでもない母だったのに…。
それからしばらくして認知症外来で脳の萎縮度を測る検査をした…納得できる結果だった。
「長谷川式」と呼ばれる認知症評価のための簡易検査の値は、当時から低下の一途を辿り、ここへきて一気にそれが加速した。30点中12点という報告を受けている
──これでいい──
煩わしいことは全部手放して、母にはこの浮世に思い残すことなく旅たってもらいたい。だから最近の食欲低下も、ぼく自身はあまり気にしていない
──そのときのための支度を始めた──
母の無意識の領域で、いよいよプログラムが実行されたのだから。
帰りに寄ったスーパーマーケットのレジでも、その親切さに暖かいものを覚えた。
松葉杖を突きながらカートを押すぼくを見るなり、レジ担当のご婦人が即座にカゴを引き上げてくださったのである。そして会計後も、カゴを戻しにレジから出てまで対応してくださった。ご自身も同様に困った経験があったのだろうか?
──こんな自然な対応はなかなかできない──
些細なことかもしれない。けれど、これだけで満たされた気持ちになれるものだな、と、帰りの車のなかで考えていた。例えいま、ぼくに何なくても…なんて、いつものようにひとりブツブツと…。
帰宅すると案の定、体力を使い果たしていた。痛みめた箇所を労わるようにして疲労にまみれた服を脱ぎ捨て、そっと汗を流した。
遅めの午後を頂いたあとの記憶がない。気づいたときにはもうすっかり夜になっていた。
このところ、居間のソファーで眠ってしまうことが増えてきている。
そしてこの真夜中、随分遠ざかってしまった千羽鶴折りを再開した。近頃毎日観ているJeff Beckのライブに耳を傾けながら…。
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【安心な場所】
2017年6月3日
「えっ? 節約? ナニソレ? 甘いの? 塩っぱいの? そもそも食べられるの?」
──そんなひとり芝居を脳内上演。誰に咎められることもない前言を鮮やかに撤回して、しっかり食べることを選択。
「いざというとき、お腹が空いていたら何もできん」
正確にはもっと具体的な表現たが、母はいつもそうして「ほれ、お食べ」と、ぼくに山のようなおかずを拵えてくれた。
お陰で肥満児街道まっしぐら。小学4年生以降は、自分のこの「割れた腹筋」を目視することができないままになった
──それでも、食卓にはどんな日にも必ず「安心」があると教えてくれたことは、何よりの宝だ。
どんなに嫌なことがあっても、これから苦行が待っていようと、食卓だけは安心していられる(だから食事の席で仕事の話をするのは苦手のだろう)
──その「安心」を守り通してくれた母は、やはり偉大だ──
何も言わず、美味しい料理を差し出してくれる
──これも「みまもる」ことのひとつの在り方──
まさに今、もしものことがあって腹ぺこが理由で飛んで行けなかったら、それこそ親不孝というもの
「あんた、アホやなぁ」
そういって高いところから微笑む母の顔が思い浮かぶ。
今日は、茄子の煮浸し・鯖の味噌煮・レッドカレー・鶏もも肉のケチャップ煮を2時間半かけて仕上げる。このところ粉ばかりだったしね。
──しかし…嗚呼、股関節が痛い(苦笑)
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【青い想像力】
2017年6月1日
傍から見れば健康そうな肥満中年男子がひとり、にぎわいの街角に佇む──しかし今の彼は、歩くのも精一杯…。
「街なかで走るなんてきっと悪さをして追跡から逃れようとしているんだよね?」
「路面に落とし穴レベルの巨大空洞があちこちにある島国じゃ瞬時に別世界に誘われちゃうよ手のひらとにらめっこして直進してくる老若男女!」
「苦悶の表情を浮かべながら脂汗流して脚を引きずって遠慮気味に歩いているのにそんな迷惑そうな雰囲気を出すのはきっぼくの身体が無駄に太いせいからかな今日も暑いのにごめんね」
「車道を行ったり歩道に乗り上げてきたり自由とは何かを哲学しようぜ耳まで塞いだロードレーサーたちよ〜」
──嗚呼、皮肉にも程があるぞこの疲れ切った肥満中年の俺様め(嘆息)──
混雑する渋谷の夕暮れ…痛みを抱えた身体でそんなことをぶつくさ思い浮かべながら、隙を突かないと渡りきれそうにない横断歩道を見つめながら途方に暮れた(遠い目)
──青春を棒に振るほど酷い痛みを患った腰痛の古傷に悩まされるこのごろ、都会の真ん中でひとり、内部障害を抱える方や高齢者、妊婦のみなさんのご苦労に、今の身の不自由さをもって全想像力を投じて想いを馳せてみる。
青い時代には、ただ自分の痛みを辛抱するだけで精一杯だったな。周りのことなんて見る余裕どころかその視点さえなかった。きっとみんなも「今」に精一杯なんだろう──
そして母を想う…今日、自宅復帰の可能性を探るために施設から一時帰宅したとき、本当に大変だったんだろうな。階段をわずか二段下りるのにも怖がって脚が出せなくなっていたほどだし。
5年前、調子を崩すまで元気だったから…
その苦しみを忘れるためには「今」のことなんてわからなくてもいいさ。
楽しかった時代の記憶のなかで生きれば、それで…。
──ところで「健常者」ってどういう意味だったかな? と辞書を引いてみたら、あまりに想像通りな読んで字のごとくの定義で、咄嗟に苦笑を浮かべてしまった。
括りを作るなら「健全者」の方が適した表現だと感じるのは、ぼくだけだろうか?
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