主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと。そして、それからのこと。

【45分間】

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2017年6月1日

 

「これ、なんやろね」

 

介護老人保険施設に入所中の母が、一時的ではあるが、帰宅した。

 

ケアプランをより的確なものにするために、ケアマネージャー、リハビリ担当者帯同のもと、自宅内の環境を本人がどの程度使えるのかを判断するためだ。

 

車椅子ごと車に乗せてもらい移動してきた母は、だいぶよろめきながらもどうにか玄関の椅子に腰をかけるなり、しばらくぶりの住処に現れた未確認物体に興味津々だった

 

──ROCKSTARの成れの果て──

 

置く場所がないまま、天空のステージ=渋谷ヒカリエから持ち帰った後、彼はずっとここで佇んでいる。

 

昨日の病院付添い時の母の印象から今日の予定がこなせるか心配をしたが、不安定なところはあったももの、どうにか必要な確認を済ませることができた。母の日常の動線や手すりの位置、ベッドからの起き上がり、トイレへの移動…その全てにおいて問題になったのは、母が身につけているバルーン。

 

自律して尿が出せなくなったため、膀胱まで管を通して外に繋がった袋に尿を自動的に取り出す仕組みだ。移動のたびにこれを自分で持ち運ぶ習慣が身につく、もしくはバルーンが不要にならない限り、自宅復帰も難しくなる

 

──そろそろ、常時誰かのみまもりがないと、ひとりにはさせておけない──

 

「この子がおらんとひとりではくらせんのよ」

 

母の現状を5ヶ月ぶりに自宅で目の当たりにして今後のことを想像していると、それが伝わったかのように、突然、母がそう口にした。

 

「大丈夫。婿にもらわれていく予定はないから(苦笑)」

 

この得意の自虐ネタに母はもちろん微笑んでいたが、同様にケアマネージャーも快く反応してくださる

 

──本当に、我が家は幸運だ──

 

滞在時間は、わずか45分。

 

広々した施設に馴染んできたのか、ぼくがそばにいるとまたガミガミ言われそうな気配を察したのか、はたまた「これ以上迷惑をかけられん」という親心がそうさせたのか、「そろそろ帰りたい」と、駄々をこねだす母

 

──20万時間ぶりの我が家だからしたかもない──

 

昨秋、長期入院から戻ってきたときも同様だった。

 

認知機能が衰えてくると、今、どこにいるのか? わからなくなることがあるらしい。だから、いつも以上に、言葉をそのままには受け止めないようにしている

 

──言葉がすべてを表現しているわけじゃない──

 

最近、改めてよく考えることがある

 

──「なぜ、言葉を必要としたのか?」について──

 

それはきっと、なんだかよくわからない不可思議な感情にそれぞれラベルを貼って符号化することで、自分を納得させたいからなのではないだろうか?

 

──想いが共有できる安心感を得たり、その逆に、阻害された孤独感から「寂しさ」を自覚したり、さらには不安を取り除くためのわかりやすい「記号」が必要だったり…そして、誰かとの離別に対峙して湧き立つ様々な感情をコントロールするための理由が欲しかったり…

 

ぼくがこんなにあらゆることを綴っていることもまさしくそうだ──

 

それで安心できるなら、甘えたままでいればいい。

 

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【ぼくのバックアップ】

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2017年5月31日

 

だいぶまた痩せたな──

 

午前中をすべて費やして、母の眼科受診のため短いお出かけをした。こうして母とふたり道を行くのは、随分と久しぶりだった。

 

送迎の車もお願いできたのだが、いい天気だったので、坂の上の施設から坂の下の病院まで車椅子を押して向かった。股関節の故障は癒えぬままだったが、300メートルほどの距離ゆえ問題ない…その見積りが甘かったと思い知らされたのは、登りになる帰りのことだった。

 

──緩やかな坂だというのに──

 

思えば、車椅子を押しながら坂道を行くのは初めてだった。脂汗をかきながら痛みを堪え悶絶し、ようやく母の居室に戻ったときには、むしろぼくの方が車椅子が必要なほどになっていた。

 

部屋着を補充して持ち帰る洗濯物を袋詰めし、お昼の時間を迎えた母に「食事をしっかり摂るように」と一言添えてから施設を後にした。

 

全体的に食が細くなってきていることに加えて、やはりここでも米を食べないらしい。

 

入院時には仕方なく麺類にしていただいていたほどだ。自宅で好物のパスタをだすと「下手な食レポーターか?」とツッコミたくなるほど戯けた調子で喜ぶ母だから…そして何と言っても、粉もの天国=大阪生まれだから…

 

残りの時間の方が少なくなった今、できれば好きなものだけ食べさせてあげたいが…そうもいっていられない

 

──「無理な延命はしない」──

 

それはぼくら家族だけではなく、母自身も望んでいることだ。

 

でも、目の前でどんどん痩せていく様子をみると…自然と「生きる」ための言葉が口を突く。

 

嗚呼、またもや解のない問いの狭間で空回りが始まってしまいそうだ

 

──理屈で捉えて理解しようと努めていることと心が感じることの差異──

 

この病院一混雑している眼科の受診をひと気の少ない待合の最後部で待ちながら、母に最近読んだ本にあった宇宙の始まりについての話をした。さらにぼんやり度合いが進んでしまっている様子で、これまで以上に上の空だった。

 

ぼくはその変化の速度に戸惑いつつも

 

「今の母にしか感じられないものがあるんだ」

 

と自分を言い聞かせながら、あの望まぬ物語を再び心に書き留めないよう努めた。

 

痛みをこらえ片脚を引きずりながら歩幅を半歩ずつにして行く家路。

 

「もしもぼくが…」

 

と考えだせば、その道はすぐさま、哲学の路へと通ずる。

 

──「ひとりで子供が産めないわけもよくわかる」──

 

ひとつの生命を独りでは支えきれない。だから、見守る眼が二つ=両親が必要なのだろう。親を見守る眼も同じだ

 

──誰かを看る──

 

それを独りだけで完遂するのは、奇跡なのかもしれない。

 

ぼくのバックアップは、未だ見当たりそうにない。

 

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【大切なこと】

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2017年5月30日

 

もしも母が料理に興味がなかったら?──

 

ぼくはこんなにもふくよかな身体にならなかったかもしれない。

 

そしてこの体型からくる妙な自意識に悩まされた今でいう「こじらせた」青春期を過ごすこともなかったかもしれない。

 

口に入れるものはもちろん色んなことに無頓着で、今よりもっと享楽的で刹那的に生きて、どこで勘違いしたのかさえ気づかずに、ある日、この浮世とやらで上手く過ごす術を身につけていたかもしれない。

 

そうしたらもう、迷うことなく大出世していたことだろう

 

──大切なことをきちんと気づかせてくれてありがとう──

 

こうして料理をしていると、母への感謝の気持ちがいつも湧き上がる。

 

──愛しい人と食卓を囲んで「おいしいね」と言い合える毎日が当たり前のようにあること──

 

それさえあれば、何もいらないのかもしれない。

 

ぼくがみつめてきたあの食卓に…

 

いつかどこかでまためぐり逢いたい。

 

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【笑顔は世代を超えて】

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2017年5月25日

 

5年前の秋、母が自宅で転落事故を起こして頭を強打し脳震盪に見舞われたとき、偶然に救急で運ばれた近場の病院…あれからたくさんのことがあったけれど、その病院の系列の老人保険施設に入所できたことは、とても幸運なことだ。

 

自宅からも近くて、都内の環状線近くだというのに環境もいい

 

──逃れることできない定めの時──

 

見送る側として、少しでも思い残すことのないように…この新緑の森を観ると、その願いを自ずと満たしてもらえそうな気持ちにさせてくれる。

 

「こうすけ!」

 

母がぼくの名前を選んだのは、呼びやすいからだそうだ。生家裏にあった京都・妙心寺の住職に挙げていただいた候補から、一番呼びやすそうなのを選んだらしい

 

──そんな風に、名前で呼ばれたのはいつ以来だろうか?──

 

荷物を抱えて部屋に入るなり、ダイニングの母の席から声が飛んできた。

 

入所3日目──。

 

声のトーンから察しても元気そうだ。スタッフの方も気を使ってくださり、お話ができる入所者の方たちと一緒にテーブルを囲んでいた。初日と打って変わって、とても和かな表情だった。

 

よく笑う母のいつもの表情が戻って、まずは一安心。

 

母の隣に寄って、お仲間の皆さんにお世話になっている旨、ご挨拶をすると、母はいつものようにぼくを紹介する

 

──次男です。この子が料理も何でもやってくれるの──

 

人生の大先輩の皆さんの視線が一気に集まり、お褒めの言葉を多数いただく

 

──恐縮である──

 

それを受けて、何か一言、気の利いたことを言わなくては、と思ってしまうのは、母譲りの質、というより、母から学んだ術

 

「お陰で、嫁の来手がないんですよ(苦笑)」

 

世代を超えた自虐ネタは、見事ここでも炸裂した

 

──オチを付けなきゃ気が済まない──

 

京都と大阪のハイブリッドな血のなす業かもしれない。

 

和かに穏やかに──母のように、どんなときもそうありたい。

 

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【セルフコントロール】

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2017年5月24日

 

昨日の母の入所初日、施設から使用済みの部屋着を持ち帰ってきた。

 

業者サービスに任せてもよかったのだけれど、少しでも節約を…いや、お金の問題だけじゃない。

 

あらゆる意味でぼくの「今」が間に合っていさえすれば、母を誰かに任せずに済んだに違いない──

 

そう思うから、せめて自分にできることくらいは…洗濯なんて、機械まかせなんだから、楽なものだ

 

──乾いた部屋着にも名札を付ける…

 

入所したてでまだ話し相手も見当たらず(お話ができる状態の方が周りに少ないようだった)、ひとり退屈そうにしていた母の姿が思い浮かんだ。

 

気持ちが晴れないのは、そのせいもあるのだろうか?

 

──学んできたセルフコントロール術も、今日はあまり効果がない。

 

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【教訓と還元】

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2017年5月23日

 

滑り台付き非常階段?

 

母を老人保険施設まで送り届けて、体力確認やこれまでのことについてのリスニングを済ませ、これから3ヶ月間のケアプランを作成いただいたところで今日の役目を終えた。

 

時間を見ると、到着してから3時間ほど経過している。表に出ると、眩ゆい光が、眠気と疲れを一気に呼び覚ましてくれた。

 

虚ろなまま駐車場に向かう。照りつける陽射しを確認するように空を見上げると、またひとつ、新たな発見があった

 

──こうしておかないと脱出できないよなぁ──

 

数えきれない失敗から得た教訓が積み上げられていく。

 

そろそろぼくも、母との日々から学び得たことを社会に還元していくころ。

それがどんなかたちであってもいいから。

 

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【介護老人保険施設、入所】

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2017年5月23日

 

「お上手ですね」

 

午前中の早い時間に母をショートステイ先まで迎えにいって、その足で今日からお世話になる老人保険施設へ送り届けた。

 

これは、森のなかにある施設の門前で車を停めて、車から降りる母を介助するぼくの様子をみていた担当のケアマネージャーからの一言。

 

誰に習ったわけでもないのに自然とこなせてしまう…これもやはり、天賦の才なのだろうか?

 

振り返れば、この4年半の間に、自分の想像と経験を超えたあらゆることをこなしてきた。それと引き換えにしてしまったことや社会的責任もあることは否めないのだが、それは追って果たしていきたい

 

──すべては可能である──

 

決して心地よいとは言い難いこの日々のなかで身を以て学んだことだ。それを信じて、未だ果たせぬままの想いを、これから大切に育んでいきたい。

 

今日の母は、予想以上に身体が動いていた。ただ、これが安定的にできるようにならないと自宅復帰はかなわない。

 

今日からまた、まずは3ヶ月。母にはリハビリを全力でこなしてもらう

 

──ぼくにとっても挑戦の日々になるだろう──

 

そのときは、必ず訪れる。

 

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