主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと

【あと10日】

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2018年4月17日

眠れぬ夜を過ごしていた。

今日の午前中、介護老人保健施設の担当ケアマネージャーとの面談があった。

先日決まったばかりの特別養護老人ホーム入居へ向けて、今後の流れと必要書類の手配、入居前に義務付けられている健康診断のスケジュール確認などが主な議題。

およそ1年前、2017年5月下旬からこの介護老人保健施設にお世話になり始めたころは、当然のことながら、自宅復帰を目指していた。

しかしそのころ、もうぼくは、ひとりで母を看ていく自信がなくなっていた。前年末の3ヶ月間、長期入院から自宅に戻った母を、ほぼ付きっ切りで看ていたうえに、翌年の年明け早々の再入院に至るまでの「2人だけの苦しい日常」を経て、限界を感じていたからだった。

その、まさに苦渋の決断を伝えたときと同じ席で、今日、ぼくは特養へ進むための打合せをしている。

老健のケアマネージャーは、どんなときも親身になって、ぼくの揺らぐ気持ちに寄り添ってくれる。打合せ中に急遽駆けつけて下さった居宅介護支援のケアマネージャーも、朗らかな笑顔を絶やさず、ぼくに不安を一切感じさせないようにしてくれている。


──何よりも強い支え──


「入居手続きをこのまま進めますか?」

「入居前に、一時帰宅することもできます」

「もう少し、ここに居ていただきたかったです」


周りから差し伸べられるその態度、表情から、今日もたくさんのことを感じていた。「感謝」や「幸運」という言葉だけでは表し尽くせない深い想いが、胸に溢れていた。

先ごろから目立つようになっていた母の言動の荒れ具合も気にかけて下さっている。その報告を受けて、ぼく自身も母の変化を感じ始めていた矢先に、特養の面談が設定されたのは、およそ一ト月前のことだった。

ぼく自身もケアマネージャーも、入居はまだまだ先のことだと思っていた。正直なところ、想像した以上の早い展開に、気持ちが追いついていない。

しかも我が家は、居住地域の待機リスト入りする目的を最優先として、たった1件だけ、入居希望を提出したのみだった(希望を提出した後、居宅介護の状況などを鑑み、待機リストの順位が決定される)。申込先は、かつてショートステイで利用したことのある施設で、なかの環境や職員の皆さんの朗らかな様子も知っていた。内見も何もぜず、申し込みを済ませた。

その1件を、見事に引き当てることになった。しかも、相当に短い期間で。

居住地域の管轄内にあるすべての特養に申し込んでも、そこから1年、2年、3年と待たされるケースもある現状で、これだけ早くに先に進めるのは、恵まれていることだと考えないといけない。

ぼくの不安と、想像以上に早く進んでいく特養への入居手続きが、母の無意識下に訴えかけたのだろうか?

それが、母のストレスとなって、荒れた言動として現れてしまったのだろうか?

ケアマネージャーは、賑やかな今の生活環境が原因なのかもしれない、と話して下さった。


「静かな環境で暮らす方がいいかもしれません」


ぼくも先にその報告を受けてから、同じことを考えていた。


──そろそろ環境を変える時期に差し掛かっている──


先日の内見で目にした特養での生活の様子は、十分知っていたつもりでも、言葉にならない想いで心が支配されていく感覚を覚えるものだった。


──今の母がここで暮らせるだろうか?──


たとえ利用者のなかに会話ができる方が少なくても、職員の皆さんとはお話して、明るく朗らかに、ぼくが知る母らしく過ごせるだろう。

一方で、当然ながら、ここで暮らし始めた途端に、母の老いが、急速に加速し始めることも容易に想像がつく。


──しかし、それこそが人の終──


静かに、緩やかに、そのときを母に引き寄せてあげたい。

そうすることもぼくの役割だと、近頃、思うようになってきている。


──あと10日──


入居前健康診断の予定も決まり、書類の手配も予想より早く進んでいる。母がここで過ごすのは、あと10日となった。


「これからどこへいくんや」


その日、母は車の助手席に腰掛け、ぼくにこう言うだろう。

本当のことを伝えたとき、母は──。


嫌だと駄々をこねるかもしれない
家に帰りたいと懇願するかもしれない
ぼくに罵声を浴びせるかもしれない


──すべてを受け止めるのが、ぼくの責任──


今日の面談を待つ間、母の居室のベッドに初めて、ひとり腰掛けてみた。

母はここに留まり、辛抱していたというのに、ぼくは逃げてばかりだった。


「あんたが頼りや」


ごめんよ。
いつまでも頼り甲斐のない放蕩息子で。


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