主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと。そして、それからのこと。

【永遠の棲家──魂の源泉】

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2018年4月30日

夕暮れ時、外出から戻り、水泳に向かう前にコーヒーを淹れていた。少しでも運動効率を高めて脂肪の燃焼を促進するために。

するとそのとき突然に、言葉が舞い降りて来た。


──魂の器──


老いていく母のことを想っていた。

生きるとは、この身体に宿らせた魂を育むこと──成熟した魂は、いつかその器から解き放たれて、源泉に戻っていく。

そこは、清らかで、澄み渡った、まさに透明な泉。争いも痛みも怒りもない場。汚されることなど、決してない。


──永遠の棲家──


それはきっと、ながいながい旅だったに違いない。


大阪に生まれる
子供時代の戦争体験
疎開闇市での思い出
バレエや声楽に夢中だった乙女のころ
腰掛けで社会人をしていた青年期
洋裁学校通い
父との出逢い
そして結婚
長男誕生
高度経済成長を謳歌した壮年期
東京オリンピック
大阪万博
夫の病い
次男妊娠中に告げられた主人の余命
次男を高齢出産
まもなく訪れる夫との永遠の別れ
未亡人となる
東京へ移住
自由を謳歌した中年期
束の間の喫茶店店主時代
バブル経済を堪能
バブル崩壊
長男の結婚
姉の旅立ち

自分の老い──。

育まれた母の魂は、いよいよその身体には収まりきらなくなってきているのだろうか?



──その場へ向かおうとしている──


何を成し得たか?
何を残せたか?
何を手にしたか?


──違う──


魂を育むとは、きっとそんなことじゃない。


「人生、遣り残し、なし」

「行ってない場所は、あの世だけ」


そう口にし続けた母が、本当に何も思い残すことのないように、精一杯、考えて、動いて、感じて、いつかの日、きちんと送り出そう。

そのときを確かに迎えられるように、日々を過ごしたい。


──己を律する──


その最も困難な挑戦を、絶やすことなく生きていこう。

母は、何も語ることなく、ぼくにそう伝えてくれている。


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