主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと。そして、それからのこと。

【面会はじめ──2018年元旦】

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2018年1月1日

 

昨日に続いて、元旦の無事を祝うべく、母に逢いに行った。

 

今日も元気に和かに、いつもと変わらぬ笑顔を浮かべていた母に、新年の挨拶を。

 

「今日は元旦だよ。挨拶しないと」

「えっ? 何やったっけ?」

 

そう言って、母はまた顔をくしゃくしゃにして笑った。

 

昨日から、母が起こした問題が原因でひとり離れたテーブルに座らされていたが、今日はお隣に男性が座っていた。でも、術後の症状が重たいのか、言葉は発せない様子だった。それでも母は気にすることなく、大広間の中央を向いて椅子に腰掛け、退屈そうに座っていた。

 

すると、少し離れた場所から、男性がジェスチャーを母に送っていることに気づいた。母を笑わせようとして下さっているようだ。その方も言葉が不自由な様子だったが、それでも懸命に、全身を使って母に話しかけて下さる。母も嫌がる様子なく、終始笑いながら話しに耳を傾けては応答していた。

 

会話の内容は、子供同士のじゃれ合いのように、母たちだけのなかで伝わっているらしかった。今のぼくには、まだわからなかったけれど、楽しそうにしていたから、それでいいと思った。

 

そして何より、母は恵まれている、と、改めて感じた。

 

 

──どこにいってもひとりぼっちじゃない──

 

 

特別何か努力をしているわけでもないのに…その秘密を、ぼくも知りたい。

 

つい先日まで母の隣でお話をして下さっていたHさんにも、新年のご挨拶をした。すると、母の席が離された訳を訊ねられた。お世話になっているHさんを嫌な気持ちにさせたわけじゃないことにひとまず胸をなでおろしたが、問題は、母がなぜ席を離れることになったのか自覚できないこと。健常と分類される間柄でさえも諍いは起こるものだが、せめてこの場所では誰もが穏やかに過ごして欲しいと願う。

 

 

──母は幸運だな──

 

 

周りの皆さんに心配してもらえる母をそう思うことがこの5年の間、とても多くなった。しかし、ぼくの記憶の外側では、若くして未亡人になるなど、母も苦労を重ねてきたことを忘れないようにしたいと、想いを新たにした。

 

そして、元旦の今日、去年からより強く想うようになった「今この瞬間のこと」について、捉え方を見直したいと感じた。

 

 

──あとどれだけ時間が残されているのか?──

 

 

それは誰も教えてくれない。ぼくがするべきことは何なのか? 次の瞬間のための選択を、より意義あるものにするために…たとえどんなに蔑まれ揶揄されようとも、或る定めのために、自分のもてるすべてを捧げたい。

 

今夕、母宛ての年賀状を届けた。手渡すとだいぶ爪が伸びているようだったから、爪切りを借りて切ってあげた。あらゆるものを無造作に触ってしまうせいか、爪にはだいぶ色が染み付いていた。切り終わった爪を集めて眺めては、施設での母の振る舞いとそれに対応下さっている職員の皆さんの姿を色々と想像した。

 

今夜、母に席の真後ろにある窓から、大きな月が見えた。元旦の明け方にも見た、あの巨大な月だ。

 

窓越しに写真を撮ってみる。

 

 

──ぼくの頭上にお月まさ──

 

 

なんだかいい気分だった。

 

母への差し入れを買いに入った便利店で、ふと気になって、自分のためにこの飴玉も買ったのは、偶然ではない気がした。

 

 

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