【母へ。ありがとう。】
2017年8月1日
膨大な時間を費やした。
何の目的もなく見返りも求めずに、ただただ必死で取組んだ。いや、無心といった方がよいのか? 今の気分を強いて言葉にするならこうだ
──満ち足りている──
あれから30年、積み上げてきたすべてを一曲に注いだ。それも自分のためではない、というところがまた心地よい
──それは、恩返し──
作業を進めるなか、そんな気持ちが湧いてきたけれど、終えてみるとまた違った気持ちがあることに気づいた
──ぜんぶ彼らから授けられたもの──
母がぼくに始まりを授けてくれたのと同じだった。
そして改めて想う──。
母へ。ありがとう。
今日予定されていた退所前訪問は先ほど延期された。また熱が出てきたらしい。
このところ、この作業に熱中し過ぎて顔を出せていなかったから、今日は面会に向かおう。
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【あれから3年】
2017年7月31日
昨日の夜、黒猫に逢った。
常軌を逸するとはまさにこのことかと我ながら呆れるほど連日昼夜問わずに敢行した〈GET WILD REMIX〉。そのための作業を明け方まで行って眠りに就こうとしたもののかなわず、結局不眠のまま朝一番で血液検査を受けるため、お世話になっているクリニックへ向かった。
「寝てないんですが、検査を受けても大丈夫なんでしょうか?」
そんな冗談交じりの会話から問診がスタート。ぼくの暮らしぶりに理解ある主治医は、最新の血圧データを確認しながら
「それだけ仕事に没頭してもこれだけいい数値ならまず安心ですね」
と、いつもの穏やかな笑顔を絶やすことなく伝えてくれた。
──ここへ来てから3年ほどがたった──
お陰で今があるのだと、自然と感謝の気持ちが湧き上がった。
検査のため空腹のままだったから、朝食を食べて帰ろうとするも、時間はまだ10時前。ほとんどのお店は未だ支度中だった。諦めて帰宅する間も、REMIXの仕上がりを絶えずチェック。気になるところがまた見つかり修正リストに加えるも、家に着いたところで力尽き、ようやく入眠を果たした。
目覚めたのは、確か20時ごろ。まだ今日の時間が残っているうちに、作り置きのために食材を買い求めに出ることにした。
夜風の心地よい静かな時間。カチカチと松葉杖を着く音を立てながら夜道を歩いていると、一匹の黒猫がぼくを見つめたまま立ち止まった
「ひとりは気楽でいいものだよな〜お互いに」
そう声をかけると、過ぎ去ろうとしていた猫がまた立ち止まってぼくを見つめた。
夜中に逆光を浴びた松葉杖姿のこの巨漢を、あの路面から近い視線で見上げたらどんあ不思議な物体に見えたのだろう? いや、もしかしたらあの黒猫も、ぼくのことを自分を映す鏡のように見つめていたのかも知れない。
LEDに切り替えられているはずの街路灯は、水銀燈のような薄い緑色を含んだ光を放っているように見えたのは気のせいだろうか? なんだか悪くない色合いだと思えたのは、その光の色に包まれていた愛しい場所の記憶があるからに他ならない
──そこを巣立って3年──
そんな風に感じた夜は、昨日が初めてだった。
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【筆は右手に、箸は左手に】
2017年7月27日
26時──。
時差を考慮した遅めの昼食?を。
作り置いたおかすを冷蔵庫から思いつくままに取り出し、冷凍済みの麦ごはんを解凍して着席。このところ、身体が酸味を欲しているようなので、米酢に和えていただくことにした。
嗚呼、ついまた左利きシフトで器を並べてしまった。こういう些細なズレが表面化しない負荷を左利きに与えている気がしてならない。
しかしどうして母は鉛筆は右に直してくれたのに、お箸は左のままにしたのだろう?
「ワタシ、左側の顔が好きなの(ニコ)」とデートに誘った女子に言われて右側に座り、肘をぶつけながら箸を突いたあの苦い記憶は…もう20余年前のこと…か?(遠い目)
──と、そんな無駄なことを思い出しつつも、今日も美味しいごはんがそばにある幸運に感謝を。
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【ゆっくり、ゆっくり】
2017年7月26日
復活へ向けて、松葉杖一本での歩行を開始。
しかし…まだ時期尚早だったかも──。
焦らず、ゆっくり、ゆっくり。
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【左手に乳母車、右手に・・・】
2017年7月25日
比較的楽に電車移動ができるようになってきたものの、未だ松葉杖生活が続いているある夜のこと。静まり返った都会の真んなかの駅で階段を登ろうとしていたとき、とても印象的な光景を目にした。
左手に乳母車、右手にお子さんを抱きかかえた状態で一気に駆け上がっていく母親のその様に、自分の母の姿を重ねた
──みなこうして育ててもらったんだな──
父が先立ち、京都から東京へ移り住むことを決めた母は、手続きのため、まだ幼かったぼくを抱えて何度も何度も往復していた。せっかく取った指定席も、ぐずりだすぼくをあやそうとほとんどを無駄にしたらしい
「あんたが泣き止まんからデッキに立ちっぱなしやったわ」
そんな風にして時おり昔を懐かしむように話してくれた。
晩年に差し掛かり少しずつこの浮世で背負った荷を下ろしていく母は、身体の不自由さとは対照的にとても自由に映る
──どんな気持ちなんだろう?──
化粧と毛染めを止めることも、オシャレをしなくなることも…オムツも施設に身を置くことも嫌がっていた母なのに…もう何も気にならない「ふり」をしてくれているのだろうか?
脳の機能が衰えても、子を守ろうとする母親の本能は、永遠に消え去ることはないのかもしれない。
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【自分の家族】
2017年7月25日
昨日、久しぶりに母の面会に行った。
受付時間終了間際にいったものだから、母はもうすっかりベッドに横になっていた。布団に包まり顔だけだして丸くなっている様子を見ると、なんだかとても可愛らしく見えた。食欲も出てきているらしく、二タ月前の入所時よりだいぶ表情も柔らかくなってきている。
顔を合わせるなりいつものセリフが飛び出した
「いやぁ、あんたが来てくれると嬉しい(関西弁のイントネーションで)」
「そんなことを言ってくれるのは今も母しかないからこちらも嬉しいよ」
と、ぼく──。
夫婦や家族、兄弟が話すことがなくなっていくのは、異なる時間を過ごしているからに他ならない。今の母と交わす話題と言ったら、体調を訊ねること、兄のこと、ケアプランについて…と、数少ない──。
絵に描いたように見事な甲斐性なしの放蕩息子は、ずっと実家に居座ってきた。そんなぼくに向かってこれぞ正論とばかりに
「自立しなさい」
と諭す、考えることのないまま生きてきたであろう非考の部外者に
「家族が一緒に暮らせること以上の幸せはありません」
と真理で応戦し続け、気づけば早いもので46年が経っている。
その時間は、ぼくと入れ替わるようにしてこの世を去った父と母が過ごした日々よりも遥かに永い。もしかすると、未だ巡り会うことのないぼくの支えより、ぼくは母と過ごす時間の方が長くなるのかもしれない。
持ち帰った洗濯ものを洗って仕上げるついでに、剥がれてきたアイロンプリントの名札を付け替える。
「家を守る」という務めが消えてなくなりそうなこの時代に、母が淡々とこなし続けてきたその役割の重みを身を以て味わう度、安心とはこうして気づかないほど自然なかたちで母が生み出してくれていたのだということを知る
「生まれた家族を失う恐怖を和らげるために、ひとは自分の家族を持つんだ」
いつか誰かが言っていたそんな言葉を、どういうわけだか、それからずっと憶えている。
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