主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと

【新しいたぬき】

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2018年5月22日

明日、一緒に楽しむ予定の森山開次《サーカス》鑑賞へ向けて、母の様子を伺いに行った。

今日は午後の昼寝の時間だったのか、母は入居以来、初めて居室で過ごしていた。先に渡したラジオを聴きながら、ベッドに寝転がって寛いでいた。

明日の予定を改めて伝えて、会場で配布されているパンフレットを見せて、そして、少し遅れた母の日の贈りものを届けた。


──新しいたぬき──


先月まで過ごした介護老人保健施設にあったたぬきの置物に手を振って「たぬきちゃん、たぬきちゃん」と挨拶していたことはすっかり忘れてしまったようだが、愉快な表情の置物に、屈託のない笑顔を見せていた。


「大きくて立派なやなぁ」

「なんでもデカいものを選べと教えられた通りにしたよ」


スケールの大きなものを好んだ母に教えられたことは多い。それは、決して物理的に巨大なことを意味しているわけではないことを、ぼくは自らの創作を通じて実感してきた。

音楽は、まさにそうだ。


──姿も形も意味もないのに、そこに物語が宿る──


明日、母はどんな物語を心のなかに呼び覚ますのだろう?

そこに何も宿さなくてもいい。過ごした時間があったことには変わりないから。


さて、母がなぜたぬきに興味を示したのか? そのわけが今日、わかったような気がした。


──腹の膨らみが、ぼくに似ている──


ほらね。太っていることも、悪くはないのさ。

1年前、母に伝記を自ら記してもらおうと渡したノートは、未だ何も書かれないまま置かれている。代わりに母の日の感謝を、1年前と同様に、今年もぼくが記した──これで2ページ。


──このノートは、何ページまで綴れるのか?──


今年から、「今」という奇跡のときのことを強く強く意識している。


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