主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと。そして、それからのこと。

【ひとりぼっちの再会記念日(2)】

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2022年11月3日

ちょうど1年前の11月3日午後、直前に受けたPCR検査が陰性を示したこと確認して、予定通り向かうことを彼女に伝えた。その夜、彼女の仕事終わりの時間を目指して、ぼくは東京から車を走らせた。車移動なら、道中、人との接触を限りなくゼロに近づけることができる。そして、もしも母の容体が急変して真夜中に施設から呼び出されても、東京に戻ることができる。さらに念のため、仕事の修正依頼に対応できるよう機材一式も積み込んで行ける(幸いオーダーは届かなかったが)──ぼくが抱えている状況を鑑みると、それが、考え尽くせるだけの可能性を全てカバーできるプランだった。

失われた時間を取り戻そうとしたのかもしれない。道中は、青春期に愛聴したアルバムの数々をプレイリストにしたものをノンストップで聴いていた。ちょうど彼女の自宅前に到着するまでの時間に合わせて調節したものである。アルバムの曲順は完全に記憶している。曲の展開も同様だ。一曲一曲、一枚一枚を聴き終える度、再会までの時間が短くなっていく──時が近づくにつれ、喜びと同時に、緊張している自分に気がついた。

門前で出迎えてくれた彼女の表情が少し不安そうに見えたのは、ぼくの心を映していたからかもしれない。なにせ1年8ヶ月ぶりである。実際に顔を合わせて、かつてと変わらず過ごせるか? ぼく自身、とても不安だった。

そんな不安からは、すぐに解き放たれた。お互い、特に気を遣い過ぎることなく(程よい気配りは当然あるが)、まるでいつも共に暮らしているかのような自然さがそこにはあった。食材の買い出しにでたり、朝食後に一緒に散歩に向かったり、近所の畑のご主人から野菜をいただきながら談笑したり、買い忘れた食材を彼女が仕事をしている間にそっと買い足しに出かけたり・・・今振り返ると、ずっとずっと、ながい間待ちわびていた、まさしく〈日常〉がそこにはあったように思える。もちろん、その時間の真っ只中にいるときには感じることはなかった。それだけ、目の前の〈日常〉に自然に向き合えていたに違いない。

それから6日間、彼女と過ごした。この後、年末に差し掛かると感染者が増えることが容易に想像できたため、次に会えるのはいつになるのか? 約束をできぬまま、ぼくたちはまた離れ離れになった。

次に彼女と顔を合わせることになったのは、予期不可能な出来事がきっかけだった。


──母が終を迎えた日──


感染が広がるなか、不安を拭ってぼくのもとへ駆けつけてくれた。彼女が来てくれたおかげで、ぼくは母を見送る日、ひとりぼっちにならずに済んだ。母を喪って、壮絶な孤独を味わうはずだったところを、彼女の存在がぼくを救ってくれたのだ。それは、ただただ安心というより他ない、ぼくがずっと欲していた感情だった。

無論、その先に訪れる悲劇のことなど、知る由もなかった。それは、「出逢えた奇跡に感謝している」と電話口で伝えてから、わずか15時間後の出来事だった。


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