主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと。そして、それからのこと。

【今年を象徴する幕切】

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2022年9月19日

文化庁メディア芸術祭名古屋展、最終日──。

台風の影響で、名古屋入りですら不安視された状況だったが、雨風の少ない午前中の移動を手配しておいたお陰で、無事に現地までは辿り着くことができた。

しかし名古屋に着いてみると、暴風警報が出ていた。会場は海に近いため、街なかより荒れることが予想される。かつ、夜になると宿に戻ることも困難になりかねないと判断して、今日の会場入りを見送る旨、事務局へ連絡を入れた。

最終日を見届けることを諦めることにした。さらに閉幕後、そのまま撤収作業に入る予定だったが、それも明日に行うことにした。

出張に出る前は、せっかくの出張の機会だから、現地でお目にかかれる方に会いたい──そう期していたのだけれど、このところ、自分の感情の揺れが激しくなっている自覚があることを理由に、キャンセルさせていただいた。


──静かに荒れ狂っている──


到着して見上げた名古屋の空は、嵐の前の静けさのように思えた。それはまるで、いつ爆発してもおかしくない今の自分の内面を映し出したかのようでもあり、ひとりそっと、必死に自制を希った。


──こころの余裕なんてあるはずもない──


あの悲劇以来、これで何度目だろう。またも街ゆく人の言動に苛立ち始めている。

特に今日は連休の終わりで、街の混雑ぶりと比例するように、目に余る言動や無関心な態度が充満しているように感じられた。


──こころの安全を最優先させよ──


周囲の環境音が聴けなくなるリスクを承知のうえで、イヤフォンのノイズ・キャンセリング機能を動作させた。視界は、乱視が加わった老眼のお陰で僅かにぼんやりしていて、今日の乱丁な心情を抑えるのには都合がいい。


(なるほど、眼鏡を忘れたのは、このためか)


台風の最中に身を寄せる居場所がないこと以上に心細いことはないため、昨日のうちにアーリーチェックインをお願いしていた。それがいま唯一の安心材料である。


──部屋に閉じこもれば、安心──


このところ、またもや背中と頸の古傷が祟って、よく眠れなくなっている。今日は普段とは違う異空間に身を寄せてじっくり休めよう──移動の疲労と不眠の身体には、この〈静けさ〉が一番の慰めになるはずだ。

しかし、である。ここまでお膳立てしても、なかなか熟睡できないのが、いまのぼく厄介なところだ。そうしていつものように、浅い眠りの最中に、余計なことを考え始めだした。


──もう少し、というところで希望に届かないのは、ぼくらしい──


子供のころから、そんな記憶が積み重なっていた。果たし得た約束、なし得た成果は、努力の末に手にした「今」は数知れないというのに、とても肝心なところで扉が閉ざされる──そんな印象が、ぼくを未だに追い詰めている。

そんな〈思考のクセ〉を強調するには申し分ないほどの出来事に見舞われたのだから、いま、こうなっていることも致し方ない。しかしこの態度は、ぼくを案じてくれる周囲に対する〈甘え〉だ。いまの〈苛立ち〉は、まさにその表れである。


──嗚呼──


またこの繰り返しだ。なぜぼくは、自分を慰めることができないのか? ぼくは今、ぼくの絶対的な味方でいないといけないのに──。

目覚めると、すっかり辺りは暗くなっていた。我に帰ってふと気づくと、結局今日も、この一年、ずっと変わることのない日常の繰り返し──己のこころのうちを見つめ過ぎる──だった。

2022年9月19日──自分の名前を冠して行う活動はこれで完遂となった。


──目指すゴールの目前で、立ち尽くしている──


これは、先立ったものたちによる〈ぼくを守るための計らい〉に違いないと前向きに思う一方で、婚約者の死の一ト月後に頂いた〈メッセージ〉のようなオファーの有終の美を見届けることは出来なかったこの現実は、今年初めのあの大雪の日、突然にしてこの世にひとり取り残された瞬間のことを、今夜、否応無しにぼくに思い出させた。


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