【大切な君へ綴られた物語】
2018年3月15日
実に些細なことなのかもしれない。それでも、これは紛れもなく、ここ最近続いている「引きのちから」が影響しているに違いない。
先の静岡からの帰り道、乗るはずだった新幹線が停電によって運行停止となった。
──こんなトラブルに巻き込まれるなんておかしい──
強い引きのちからに守られていたぼくは、そう繰り返し考えながら、こう思っていた。
──このトラブルは、吉報の前兆──
突然できた時間を持て余すように、車中で食べる予定だった駅弁を立ったまま頬張り、ぼんやりとホームで戯れる子供たちを見つめていたとき、友人からメッセージが入った。いつも通りのたわいもない、しかしとても貴重なやりとりが続いていたなか、ある物語の一編が送られてきた。
ジャンニ・ロダーリ《パパの電話を待ちながら》
それまですっかり忘れていたことを思い出した。それは、この本のことが随分前から気になっていたのに、そのままにしていたことである。
──電話を待ちながら──
すぐさま、電話をした。この本の存在を思い出させてくれたことを伝えたくて。
すると、目の前に、待ち侘びた帰りの列車がホームに滑り込んできた。
通話を終えたあと、チャットに戻り、帰宅するまでメッセージのやりとりを続けた。
──その本のことが気になって仕方なかった──
荷物を置いてひと息つく間もなく、再び街へ向かった。
今夜、手に入るはずもないと思いながらも、その街で一番遅くまで開いている書店に入った。それなりの広さはあるものの、扱う海外文学の数は知れている。しかし、書店の中を歩いているうちに、なぜか「ここにある」ような、根拠のない予感を覚えはじめていた。
出版社ごとに整理された書店独特の陳列を見渡しながら目指す文庫を探すも、インデックスはやはり日本の作家名ばかりが目につく。海外物など扱っている気配は薄かったが、ある直感がぼくを導いてくれた。
──サン=テグジュペリ──
どの書店でも扱っているはずの名著の側にあるかもしれない──。
あてもなく店内を歩くと、出版社の枠を超えて、海外文学の名著をまとめた小さなコーナーを見つけた。目当ての作家インデックスはもちろんない。それでも「ここにある」と信じて、目線を動かした。
すると、その本は、今夜のぼくには必要ない無数のタイトルのなかに、たった一冊だけ、肩身を狭そうにして背表紙をこちらに覗かせていた──まさに、今夜のぼくの到来を待ちわびていたかのように。
──対峙するすべては、自分を映す鏡──
言葉も音楽も作品も風景も…そして、ひとも。
愛しい娘さんのために綴られたその言葉は、時空を超えて、その夜、ぼくに降り注がれた。
──教えがすべてではない──
親から注がれた大切な言葉を、自分の歩みのなかで自分のものとして育んでいけるか?──そんなことを時折思い浮かべながら、大切な人を想って綴られたこの物語の世界に浸っている。
夜、床のなかで目を通すのが習慣になった。不思議と眠たくなるのは、娘さんの子守唄代わりに綴られたお話だからだろうか?
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