主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと

【物語は不意を衝いて】

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2018年2月22日

相変わらず、振れ幅の大きい毎日だ。


満たされた時間──。

それが、実際に味わっている実時間よりも短いまま終わるように感じられるのは、楽しいことが連続し過ぎて、すべての瞬間を憶えられないからなのではないか?

──ぼんやりしながら、そんな考察を巡らせた午後、残った疲れを癒すように床の中でうずくまっていると、見覚えのある番号から1本の電話が入った。


──特別養護老人ホームからの面談打診──


申請からわずか3ヶ月弱だった。居住区域内の待機者リスト入りした後、要介護度や在宅介護環境、緊急性を鑑みて順位が決定されると伺っていたが、我が家の緊急度は、やはりかなり上位と判断されたのだろう。


──独身中年介護者の孤独な奮闘──


無論、まだ入所が認められるか、そしてお話を伺ってぼくらが入所を改めて希望するかはわからない。

現在お世話になっている介護老人保健施設は、母も居心地が良さそうだし、何よりみなさんがとても親切。もしも叶うなら環境を変えたくない。このまま自宅と施設を行ったり来たり…それができればいいのだけれど、「自宅復帰を目指す」という老健本来の在り方から掛け離れてしまう。さらに、母はもちろん、ぼくに関わるすべての体力も限界へ近づいている。

そして言うまでもなく、母の他にも、老健への入所を待ちわびている方もいる。


──進めるなら、先へ──


その決断をするときが、いよいよ近づいているのかもしれない。


不意を衝かれたざわめいた動揺から逃れるように、そのあと、気づかぬうちにまた深い眠りに落ちてしまった。

夜遅く、時間を無駄にした罪悪感を伴って目が覚めた。すっかり冷え切った2階の居間に上がり、寒さしのぎに暖房をつけようとしたが、コントローラの電池切れで動作しない。


「電池交換さえ面倒だな」


そう思いながら裏面に目をやった──。


そんなことをしていたことさえ、すっかり忘れていた。


その場で膝から崩れ落ちそうな気分だった。そこにある小さな注意書きには、まさに必死だったころの自分が映し出されていた。


電池交換は
浩介に頼む


文字数、改行位置、テープの幅、大きさ、粘着力…。

あらゆることを吟味していた記憶が一瞬にして蘇ってきた。

同時に、電池交換さえできなくなってしまった日が母にやってきたことも…。

そんな些細なことさえ、受け入れられるようになるにはとても時間がかかった。

いや、今でも受け入れられてはいないのかもしれない。


──ただ、そう納得するように自ら言い聞かせているだけ──


面談の予定日は、よりによって、3月14日。


──優しかった、叔母の命日──


あの日、ぼくは台湾にいて、メールで報告を受けた。苦しい決断だった。台湾での作品発表が迫っていた。その後に催された葬儀には列席しないと決めた。

荼毘に付されるその時刻、滞在先の屋上でひとり、台湾の友人が贈ってくれた線香を焚いた。とても風の強い日で、立ち込めた煙が渦を巻くように舞っていた。果てしなく、静かな時間だった。


──ぼくが不在だった叔母の葬儀で、母は何をみたのか?──


母はそれを機に、自分の番が迫っていることを感じ始めた。そして、いわゆる「終活」に着手しだした。すると奇しくも、それと時を同じくして、母の身に変化が起き出した。

あれからもう、10年近くの時間が過ぎた。ぼくにも、たくさんの変化があった。


──変わってしまったこと──

──変えられないままのこと──


今もその狭間で、絶えずもがき続けている。


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