【母の黙示録】
2018年2月2日
東京に今年2度目の雪は積もった日──。
顔を合わせるのが少し久しぶりだったからか、今日の母は、会話の隙間にいつもの台詞をやけに繰り返した。
「あんたが生き甲斐や。頼りにしてるで」
その表情は、親の不在を案じる子供のようにみえた。
──さみしい思いをさせてしまった──
ぼくも幼いころ、こんな表情を浮かべて母を見つめていたのだろうか?
「頼りにしてもらえるように、しっかりするよ」
込み上げてくるものを感じながら、そう応えるのが精一杯だった。心の震えを悟られないように、必死に言葉を紡いだ──
2度目の雪が降ったこと
前よりも積もらなくて雪かきせずに済んだこと
雪化粧のなか向かった墓参りのこと
兄が影ながらサポートしてくれていること
今春と来春の上演のこと──
「それを観るまでは生きてなあかんな」
そう言って、母はいつものように顔をくしゃくしゃにして笑った。
「今日は寒いんか?」
「格好を観て想像してよ」
いつも話を遮るようにして、母はまた質問を始めた。施設に入ってから初めての冬、外の様子が気になるのか? それとも季節の話題をするのが会話の定石という記憶が未だ残っているのか?
母は、一切を語ることなく、言葉にならないぼくの心の声を映し出す──。
──黙示録──
今夜の母は、ぼくの手を出して強く握りしめながら、素直に言葉を放った。
「大きくてあったかい手や」
数年前、ショートステイに初めて母を預けるとき、手を引いて歩いた。そのとき、初めてきいた言葉だった。あのときの、気持ちは今でもよく憶えている。
たとえ、いつか理解することさえできなくても、安心させて送り出したい。
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