主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと

【誰かに話したくなる出来事】

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2018年1月20日

 

午後、母の散髪をしに施設へ向かった──。

 

日常の介助を施設にお願いしているため、ぼくにできることが、実はもうほとんどない。今では、節約のために自宅で続けている洗濯と通院の付添いくらいになっている。

 

施設に定期的に入る理容/美容サービスでもカットなどはしてもらえるから、これまで何度か利用してみたけれど、どうもなかなか本人の思うようにいかないらしい。要望も上手く伝えられないのだろうし、カットする側も短く切り過ぎて苦情が出るケースも多々あるとのことで、「普通」の範囲に収めることがほとんどだと、ケアマネジャーから実情を伺った。

 


──ならばぼくが──

 


と思ったのも束の間、ただでも忙しい日常のオペレーションにイレギュラーなイベントが挿入されるのはどうなのか? そう疑問に感じて相談してみたところ、快く了解して下さり、今日、母の居室でさせてもらった、という次第である。

 

それにしても、だいぶ久しぶり過ぎて、やや後頭部を切り過ぎてしまった印象は否めない。それでも、見慣れた母の髪型が蘇った。

 

ハサミもタオルもマントも襟足を揃えるバリカンもタオルも何もかも、これまで使っていた道具を持ち込んで、寝癖のままの髪を濡らさずにカットを始めると、案じた通り、母はじっとしていられない。

 

「手が切れると楽器弾けなくなるからじっとしてて」

 

そう何度お願いしても、気になる話を始めては後ろを振り向く母。しまいには注意するぼくを面白がって、いたずらっぽく首を動かすフェイントをかけては笑い始めた。

 

幸いなことに、これまで母の散髪をしていて大事になったことはないが、一度だけ、やはり母が急に動いて、指の腹をわずかにハサミで切ってしまったことがある。だが、何事も経験。以来、ある程度動きを予測したり、細かいカットの際は話しかけるのを止めたり、色々と工夫している。

 

そうこうしていると、様子が気になったのか、お隣の入居者の方から声がかかった。

 

「あら、散髪屋さん? 私もお願いしたいわ」

 

よくみると、ボタンホールを繋ぐようにストライプの入った白いシャツを着てハサミを持っていたぼくは、まぎれもない「床屋さん」スタイル。見間違えられてもおかしくなかった。

 

母は、ぼくが次男で音楽をやっていることや、年の離れた長男がいて〇〇大学を出て立派に働いていることなど、その方に向けてスラスラと話し始めた。ぼくのことにはついては──


「この子が家のことはぜんぶやってくれる」
「料理も洗濯も掃除もみんな」
「だから私は楽チン」

 

──そんなことを、いくつか加えてくれた。

 


──まだ憶えてくれてたんだな──

 


もしもほんの少しだけ、この世の記憶をあの世に持ち込んでもいいのなら、こんな風に、誰かに話したくなる出来事だけに限りたい。

 

母が、そのひとつに今日のことも加えてくれたら、嬉しいのにな。

 


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