【現存するレトロ──時間という荒波を超えて】
2017年11月11日
果たして、このオーブンはいつから家にいるのだろう?
ビルトイン式はもちろん、電子レンジやオーブンレンジさえ存在しなかった遥か昔から我が家を見つめ続けてきたこのオレンジ色の電熱式オーブンを、今朝、壊してしまった。
母は、何事につけあまり手入れをしないものだから、焦げかすやら焼きもちやトーストのカケラやらがトレイの下にたくさん溜まっていた。
永年その様子を目にするたび
「どうやって掃除するんだ?」
と思案していたのだが、今日初めて本体を持ち上げて底を覗いてみたところ、内部を掃除するための蓋を発見。迷わず開けて燃えカスを取り除いているとき、電熱線を被う管に指が触れた途端、折れてしまった。
幸い砕けはしなかったので、補強や接着などすることもなくそのまま現状復帰させて、試運転を試みる。特に問題なさそうだけれど…なんだか不吉だ。
熱も下がったし、今日は早い時間に母の面会に行ってこよう。また洗濯物も溜まっているだろうから。
いつだったか、
「そろそろ買い換えたら?」
と勧めて手にした同種のオーブンは、機能も使い方もほとんど変わらなかったのに、何が気に入らなかったのか、
「加減がようわからん」
と言って、すぐに押入れの奥にしまわれてしまった
(現在は、あるバーにもらわれて役目を果たしている)。
──何か想い出でもあったのだろうか?──
それを差し引いたとしても、色も形もとてもいい。ぼく自身もなんだか愛着のようなものを覚えているからこそ、使い続けているに違いない。
昔のモノにノスタルジーを感じているわけではない。当時のデザインだって淘汰されたものの方が圧倒的に多いはずだ。
──「現存するレトロ」──
古典にしろ様式にしろ常識にしろ、今ここにあるものは「時間という荒波」を超えてきただけの理由があるのだと、ジリジリと音を立てて時を刻むタイマーの音に耳を澄ましながら、想いを馳せている。
──15分──
最長時間に設定した空焼きが終わった。折れた管の傷は、焼入れされたかのごとく目立たなくなっている。
そして…数十年かけて染み込んだであろうバターとトーストの焼けた香りが、今、母が不在のままのこの居間を満たしている。
母がこだわったのは、この香りのことだったのかもしれない。
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