主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと。そして、それからのこと。

【ぼくらは言葉に頼りすぎた】

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2017年9月22日

 

23:30──母を寝かしつけたあと、台所を綺麗にして、ようやく一時帰宅1日目を終える。

 

 

20:00──夕食を終えてからもアバドの演奏に母が興じているうちに、傍でせっせと作り置きを始めた。

 

 

──鶏胸肉の蒸し鶏・鶏肝と砂肝の生姜煮・鯖の味噌煮──

 

 

22:00──今夜最後の一品=「豚ロースとにんにくの芽の野菜炒め」を仕上げたところで、母に寝るよう促す。

 

だいぶ楽しんだ様子で、帰ってきてから休むことなく、7時間以上観続けていた。ベートーベンやマーラーの馴染みの交響曲の旋律を歌いながら…そして時おり指揮の真似をしながら…。

 

でも、横顔を眺めているとなんだかぼんやりしている。かと思えば、目につくものすべてに手を伸ばして、何度も何度も繰り返し触っては何かを確認している様子でとにかく落ち着きがない。

 

先月の一時帰宅のときも同じだった。

 

 

──手触りを求めているのか?──

 

 

会話は相変わらず噛み合わない。冷静に観察すると、こちらの質問にはほぼ応えられなくなっている。

 

 

「唐揚げってどう作るんだっけ?」

「この演目は現地でも観たの?」

 

 

質問の意味が理解できないのか言葉がでてこないのかわからないが、母から応えはなかった。

 

 

──自分から何か言葉を発するようにしてあげればいいのか──

 

 

そう気付いていくつか試すも、特に即効性はなし。

 

徐々に、こうした瞬間が増えていくことは想像できてはいる。しかし、今日もその時間に向き合うのは、かなり苦しいものだった。

 

 

──今すぐここから逃げ出したい──

 

 

この、相手とわかりあえないときに覚える身体の感触は、母に対しても同じだった。

 

 

──心は絶えず揺らぐもの──

 

 

それは悪いことではない、と、自らに言い聞かせながら、いつかの闇に沈まぬように一瞬一瞬を積み重ねていく──介護者としての5年という時間で得た術。

 

 

──ぼくらは、言葉に頼りすぎた──

 

 

母との噛み合わない会話が続き、理解が得られているのかと不安に押しつぶされそうになったとき、ふと、いつも感じていることが頭を過ぎった。

 

 

──この時間こそに価値がある──

 

 

通じ合えているかなんて、確かめようがない。こうした時間があることに目を向けよう。

 

 

──だから、これでいい。これでいいんだ。

 

 

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