【母こそ、今を生きている】
2017年9月14日
旅の前に、今夜も母の面会にいった──。
先日、施設のスタッフの方から伺った
「タヌキの置物がいつ喋り出すのか?」
という話題を出してみたけれど、母はそんな話しを自分がしたことさえ憶えていないらしい。
無論、それはどうでもいいことだ。とにかく今夜も、いつも通り終始笑顔を絶やさず、ご満悦の様子だったのが何よりである。それが、ぼくを安心させるための芝居だったら驚きなのだけれど。
──母こそ、今を生きている──
人は過去にも未来にも生きることができない。
母の介護が始まって、出口の見えない不安に押しつぶされ、何度も何度も深い闇に陥った。既に存在しない〈かつての母の幻影〉を見つめながら、奔放に振る舞う目前の母に苛立ち、すべてを母のせいにして自ら絶望したあの日々──。
そこから再起を期して貫いてきた
「今を生きる」
という信条を、衰え行く母の姿から感じ取れたことは、まもなく丸5年を迎えようとしているこの月日が無駄ではなかったことを物語っている。
──「昔のことは忘れろ」──
映画《アンダーグラウンド》のラストカットで放蕩な主人公が言い放つあの台詞に出逢ったのは、たしか介護始まる前の年のことだった。
──「今を生きろ」──
それが母からの〈思考を超えたメッセージ〉──。
ぼくたちは「今」にしか、生きられないのだから。
帰り道、いつも通りプールに寄って、旅の支度を進めるため家路を急ぐも、突然思い立ち少し遠回りして、入所を検討している特養老人ホームの下見に向かった。内部の見学を希望する前に、まず周囲の様子などから感じるものを計りたいと思っていた。
ケアマネジャーからのアドバイス通り、自宅に近いというのはやはり大きな利点と言えそうだ。そして、面会にいく離れて暮らす家族のこともある。足が遠のかないよう、交通の便がいいに越したことはない。
今夜向かった先はところで空きはあるかもしれないが、スタッフの「新規募集」がかけられているということは、オペレーションはどうなのか? 経営は問題ないのか?
──母の終の住処──
熟慮すべき点はいくつもある。
頂いた冊子を参考にネットで情報を集め、10ヶ所程度に候補を絞った。
この秋の旅を終えたら、集中的に下見を進めよう。ゆっくり、穏やかに母が過ごせるのなら、それ以上は何も望まない。
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