主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと。そして、それからのこと。

【Beside you.】

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2017年7月14日

 

最寄りにこの路線の駅ができた小学校4年生から高校を卒業するまで、この電車に乗って学校に通っていた。

 

この駅で乗換えて、どういうわけかだか未だ知らないけれど、ここだけ土台の桁の高さが変わったこの場所で、いつも帰りの電車を待っていた。高校生のころは、当時流行していたWALKMANでカセットにダビングしたお気に入りの音楽を聴きながら…そして今と同じように腰を故障して浪人を強いられた予備校時代も同じように音楽を聴きながら、ここで佇んでいた。

 

──今夜、こんな気持ちで独り過ごすことになるなんて──

 

あのころの、当たり前の日々には想像することさえなかった

 

 

「もう、いいじゃないか」

 

 

──「客観の事象」などこの浮世にはないとずっと思ってきた。けれど今、まさに意味上の客観的な視点で、自分にそう語りかけるときがきている。

 

 

「全部試したじゃないか。十分によくやったよ」

 

 

──都合のいい言い訳か? それともただの甘えか?

 

何も手につかないわけは、この暑さのせいじゃない。

 

──そのことで頭のなかがいっぱいなんだ──

 

 

「この先、独りで看るのは…」

 

 

──その始まりの瞬間から今の今まで、シーンの全部をみて、感じて、痛みも苦しみも葛藤も安堵も、そして僅かな希望も喜びもすべてを味わってきたのは、ぼくだけだ

 

 

──もう、できることはなにもない──

 

 

それがわかっていても、この決断をするほどの苦しみはないのだと、今、初めて知った。

 

 

──母が身の周りのことをひとりでこなせなくなったとき──

 

 

この5年近くの間、ずっと考えてきた

 

 

──終わりのときについて──

 

 

「この状況を変えられるかもしれない」

 

 

──そんな果たされることのなかった夢を見ていた日々もあった。

 

けれど、結局今も、何も変えられないままだ。

 

 

「自分のために時間を…」

 

 

──熟考されることなく容易く口を突く実に尤もらしい言葉はいくらでもでてくる

 

 

「それでも…。」

 

 

この5年、知恵も記録も体力も時間も資本も絞り出して抗ってきた。でも…とうの昔に、その全てを使いきってしまった。

 

 

「それでもまだ何か可能性があるというのかい?」

 

「別にその選択が裏切ることにはならないよ」

 

 

たとえぼくが他者であっても、当事者に対してそんなことは絶対に言えない。どんなに真摯な気持ちが込められていようと、深く深く相手のことを想っていようと、それが何の解決にも慰めにも労りにもならないことを知っているから。

 

 

── Beside you. ──

 

 

ロックスター気取りでそう口にしているぼくだけれど、これは冗談なんかじゃない。

 

 

──相手の痛みは、想像することさえできない──

 

 

それを知ったとき、できることはただひとつだった。

 

 

──そばにいるよ──

 

 

どんな言葉よりも、それがきっと支えになるから。

 

たとえこれから離れ離れになっても…きっと、ね──。

 

 

もうそろそろ決心しなくちゃいけない。

母から教えられたことに倣って

 

 

──独りですべてを決めたらええ。誰かに相談したって最後に決めるのは「自分」なんやから──。

 

 

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