主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと。そして、それからのこと。

【多幸感プログラム】

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2017年5月14日

 

母の日──。

 

こうした大人の企てに対して違和感を覚えるようになったのは、母の影響が大きい。

 

歳をとってからの子だったこともあって、大人の世界についていつも本当のことを話してくれた。故に、あらゆる催事は何事もなく過ごすことがほとんどだった記憶がある。

 

母を預けているショートステイ先へ面会に行った。我が家の担当の方に

 

「母の日ですからいらっしゃると思っていました」

 

と告げられ、今日は面会が多い日なのでは? と素直な疑問を投げてみると意外な応えが返ってきた

 

──そうでもないです──

 

この日は日曜日に割り当てられていることも影響しているのだろう。在宅介護の負担を軽減する目的で利用されることの多いショートステイだから、それも当然なのか? それともこの日ばかりは帰宅させてお祝いをするのか?

 

いずれにせよ、ここでも日常は社会を歪みなく映していた。

 

フロアに上がるとカラオケの時間になっていた。当然母はそこに混じることはない(母子ともに反カラオケ主義である)

 

居室に案内されると、ベッドで横になりながらテレビを観ていた。

 

テレビがデジタル化される頃、業界関係者に話したことがある

 

「これを機に観なくなる家庭も多くなるんじゃないですか?」

 

「そんなことはないですね(ニヤ)」

 

あのとき、先方が不敵な笑みを浮かべた理由が今ならよくわかる。

 

認知機能が薄れゆく高齢者にとって、受動的に時間を潰すのにこれほど打って付けのものはない。

 

退院前に病院のリハビリで行われた認知テストでは、当然ながらさらにスコアが低下していた。

 

いつもいうように、今の母は、浮世で背負った様々な面倒から解き放たれつつあるのだから、このままでいいのだけれど…

 

残りの時間をただその時を待ち侘びるだけでいいのだろうか?

 

今の母がどんな気持ちでいるのか?

 

それが知りたくて、ノートを渡した。話しの種に、と、母の結婚当初の記録であるアルバムを併せて──。

 

最初のページには、今日の贈りものとして、ぼくからの言葉を綴った。その場でノートは開かなかったから、見届けないままその時を迎えてしまうかもしれない

 

──素晴らしかった時代に生きる──

 

認知機能が衰えていくと、自ずとそうなると言われている。それこそまさに、人に備えられた〈多幸感プログラム〉なのだろう。

 

アルバムは、母がご贔屓の指揮者を追いかけて欧州を旅していたバブル期の記録まで10冊ほど残されている。願わくは、その全てを回想して、自分の色鮮やかだった記憶をここに記してもらいたい。

 

そしていつの日か、お互いに満たされた気持ちで母を送りたい。まだまだ遠い未来になるだろうけれど…。

 

それが今、一番の願いだ。

 

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