主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと。そして、それからのこと。

寡夫ロマンティック

【母が死んだ夜のこと──母と婚約者 ふたつの死(28)】

2022年4月30日⁡2021年の師走に入った最初の日、まだ夜が明けぬままの未明の刻だった。東京には凄まじい風が吹き荒れていて、ぼくは床の中で眠れぬままの時間を過ごしていた。強い風が、安眠のため毎夜閉め切るシャッターを激しく叩く音が絶えず鳴…

【ぼくを滑り抜ける風──母と婚約者 ふたつの死(27)】

2022年4月28日⁡このところまた激しく泣き崩れてしまう日が増えている。今日もそんな1日だった。⁡調子が崩れかけた原因は、昨夜読んでいた本の序文だったと思われる。⁡⁡──悲しみは、故人と2人で癒すもの──⁡⁡そんな一文を目にした途端、床のなかで嗚咽…

【1400万人のなかのひとり──母と婚約者 ふたつの死(26)】

2022年4月25日⁡彼女の葬儀を終えて火葬場へ移動する際、担当して下さったドライバーの方が労いと同時に、驚きを伝えて下さった。⁡⁡「あんなに花で満たされた棺は初めてです」⁡⁡遺影と共に助手席に乗ったぼくにそう話しかけて下さったとき、しばらく続…

【彼女が荼毘に付された日──母と婚約者 ふたつの死(25)】

2022年4月25日⁡真の悲しみを知らずにいた蒼い時代には、上辺だけの言葉をいくつも吐いていた記憶がある。当事者になった今、痛切に思い知らされているのは、そんなことなど、到底できない、ということだ。⁡⁡──前を向く──⁡⁡この悲しみは、決して消えな…

【出棺の午後に舞う雪──母と婚約者 ふたつの死(24)】

2022年4月21日⁡母の死から一ト月後に起きた婚約者の急逝は、文字通りあまりに突然な出来事だっただけに、未だ強いショックと深い悲しみに囚われている。⁡今まさしく〈はれもの〉な状態のぼくはその自覚があるゆえなのか、それとも元来そうして生きて…

【亡き婚約者の百箇日──母と婚約者 ふたつの死(23)】

2022年4月19日⁡納骨式から戻って以来、ほとんど寝込んでいた1週間だった。⁡帰京直後にぼくのことを案じて集ってくれた友人の輪のなかで過ごした時間もあった。しかし、安心な時間があればあるほど、その輪のなかに彼女がいないことが強調されてしま…

【果たされたわが使命──母と婚約者 ふたつの死(22)】

2022年4月17日⁡また酷い抑うつ状態に陥っている。⁡彼女の納骨式に立ち会う間、亡くなった彼女のことを知る人たちに会えば、その時間は気が紛れるはずだった。ところが気づけば、その時間はぼくに、彼女の不在をより色濃く知らしめることになった。⁡⁡─…

【振り出し──母と婚約者 ふたつの死(21)】

2022年4月14日⁡この悲しみに、再び打ちのめされてしまった。⁡婚約者の納骨式に立ち会うにあたり、ぼくは期待を抱いていた。この悲しみを共有できる輪のなかで、今からおよそ90日前──危篤から火葬を終えるまで──に体験した奇跡のような時間が再び訪…

【むき出しになった真の悲しみ──母と婚約者 ふたつの死(20)】

2022年4月10日⁡彼女の納骨式に立ち会った。⁡この日、樹木葬が執り行われ、彼女の遺骨を大地へ埋葬した。⁡⁡──儀式は、遺されたものの気持ちを静めてくれる──⁡⁡いつか、遠い遠い未来から今日のことを振り返る日を迎えることができたら、この日が明らか…

【彼女が育った街で出逢った奇跡──母と婚約者 ふたつの死(19)】

2022年4月8日⁡母の喪失に備えて、グリーフケアや悲嘆に関する書籍を読み始めたのは、今から5年ほど前のこと。知識を蓄えておけば、予想できない悲しみを乗り越えるために役立つのではないか? そう考えて取り組んでいたことだが、同時に、絶えず頭の…

【やさしさという名のエール──母と婚約者 ふたつの死(18)】

2022年4月8日⁡一日も早くこの状況から抜け出したい──。⁡残された自分の人生を全うするために、強くそう願っていた。⁡しかし、そのためのエネルギーは、未だ一切ない。そんな状態で無理し過ぎていたのだろう。現実と理想のギャップに、完全に打ちのめさ…

【世界一幸運な男〈後編〉──母と婚約者 ふたつの死(16)】

2022年3月27日⁡退所手続きは、事務的に済ませればわずかな時間で終えられるものだった。しかし、多弁なぼくだから、こうして綴っているような、これまでの思い出や様々な気持ちの移ろいまでもお話しさせていただいた。⁡その時間はまるで、グリーフケ…

【世界一幸運な男〈前編〉──母と婚約者 ふたつの死(15)】

2022年3月27日⁡今年度のうちに、どうしても終える必要のある手続きをひとつ残していた。⁡⁡──退所手続き──⁡⁡晩年の母が暮らした特別養護老人ホームとの最後の手続きである。そのための連絡は2月中旬にいただいていたのだが、ちょうどそのころ、早逝し…

【死は忌むべきものではない】

2022年3月24日⁡昨日は極端な1日だった。⁡こんな状況の最中に、わが幸運を噛み締める出来事があったかと思えば、同時に、恩師の訃報が届けられた。今の気持ちに染み入る言葉を交わし合い、想像さえし得なかった穏やかな時間が過ぎた途端、恩師の訃報…

【母の死を受け止めた日──母と婚約者 ふたつの死(12)】

2022年2月22日⁡「2」が並んだ日──今日は、来る母の海洋葬へ向けて、東京の西部にある会社窓口へ母の遺骨を引き渡す予定が組まれていた。⁡約束は午後だったが、自宅から距離があるため、午前早めに起床する計画していた。しかし、相変わらず体内時計…

【あの日の手の温もり──母と婚約者 ふたつの死(11)】

2022年2月19日⁡3度目のワクチン接種──副反応で2日間、寝込むことになった。レポートされている通りの症状が次々と現れた。発熱は一時、39度を記録したが、不思議と熱による身体のだるさや辛さは感じなかった。呼吸も正常で苦しさもなかった。一番…

【幼さという凶器──母と婚約者 ふたつの死(10)】

2022年2月15日⁡心ない言動に「案の定」、感情を揺さぶられている。⁡⁡──自分のこころの内を公にすること──⁡⁡それは少なからず、誰かを傷つけることになる──そう捉えられても仕方のないことであると、覚悟はしていた。しかしその覚悟は、現実を目の前に…

【3度目のワクチン接種──母と婚約者 ふたつの死(9)】

⁡2022年2月9日⁡昨日はひどく疲れた1日だった。抑えきれない感情をノートに綴りながら、止めどなく泣き続けていた。ノートは、1日1度開けば済むことがほとんどだが、ときには数度、開かれる。昨日はまさにそんな1日になった。明るい方から暗い方へ……

【はじめて号泣した日──母と婚約者 ふたつの死(8)】

2022年2月2日 ⁡午後4時44分──。⁡いつもの場所に腰掛けて、窓辺から外の景色を見つめている。少し陽がながくなったうようだ。師走の初めに母を送ってからすっかり夕暮れ時に恐れをいだくようになっていたが、ここ数日は、その明るさが、わずかながら…

【窓越しの再会──母と婚約者 ふたつの死(7)】

2022年2月1日⁡今日は目覚めたそばから疲れを感じた。昨夜あまり眠れなかったせいだろう。それでも気持ちを整えようと、日課となっている近所の散歩に出掛けることにした。⁡なるべく人と遭遇しないルートを辿ったはずが、自由勝手な人たちばかりと次々…

【涙と共に感謝を伝える──母と婚約者 ふたつの死(6)】

2022年1月31日⁡今日も目覚めた直後から、心に収めたはずの疑義が沸き立ち始めてしまった。うがいをして白湯を飲むという日課にしている自律神経を整える儀式を済ませてから、いつものようにノートに向かい、感情を吐き出した。自らの思考を整理するた…

【悲嘆に向き合う勇気──母と婚約者 ふたつの死(5)】

2022年1月30日⁡今日はこの3週間の間で、最も苦しい時間に直面している。目覚めた瞬間から、既に納得して心に収めたはずの疑義がまた吹き出してきた。わが暴走した想像力は収まる気配がない──ノートに気持ちを書き出してはみたものの、感情の落としど…

【怒りと抑うつのステージ── 母と婚約者 ふたつの死(4)】

2022年1月29日⁡精神医学の側面から死についての考察を深めた故エリザベス・キューブラー=ロスによる「死の受容のプロセス」を参考にすると、ぼくは今、「怒り」、そして「抑うつ」の感情に支配されている段階とみていい。⁡この「キューブラー=ロス…

【囚われた夜──母と婚約者 ふたつの死(3)】

2022年1月28日⁡東京に大雪が降った日の夜、ぼくは自宅のベランダの手すりに雪が降り積もったこの写真を彼女に送ろうとしていた。素早くリアクションがあれば、いつもよりだいぶ早い時間から電話をしたいと考えていたからだ。⁡しかし事実を後から追え…

【繋がれた命──母と婚約者 ふたつの死(2)】

2022年1月22日⁡脳MRI/MRA検査を受けた。この検査受診は、彼女の葬儀に立ち会ったご家族との約束でもある。⁡今日も午前中に目覚めるも、昨夜からの軽い動悸の影響か、身体が重たい。⁡⁡──今回の出来事を可能な範囲で書き留めておきたい──⁡⁡昨夜そう思っ…

【大雪の霹靂──母と婚約者 ふたつの死(1)】

⁡2022年1月21日⁡何年ぶりだろう? この言葉を使うのは……。⁡⁡──死──⁡⁡少なくとも、母の介護者として見守り続けた9年間は、口語にも文語にも「死」という言葉を使わないように意識してきた。それは「死」に意識を向けたくなかったからではない。それと…