主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと

【孤独のおでんに2021年の躍進を誓う】

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2021年1月2日

元旦のラザニアに続いて取り組んだのは、おでん。コロナ禍になる直前、去年の今頃だったか、ふと思いついて〈おでん研究〉を始めた。あらゆる具材を試した結果、どうもぼくは、練りものに興味がないことがわかった。唯一、あまり人気のない〈ちくわぶ〉が好きなので当時は欠かさず入れていたのだが、今シーズンは、「二次加工されていない食材」をなるべく選んでいる。

大根を丸々一本、面取りまで行い丁寧に下拵えして、昆布と一緒に下茹でする。沸騰したら昆布だけ取り出し、大根はそのまま20分ほど加熱。その茹で汁のなかに、鶏の手羽元1キロを投入し、茹でていくこと1時間。序盤にでてくる灰汁を取り除いて、にんにく、しょうが、鷹の爪、ネギの二股になった箇所から上の部分すべてを加えて火加減を整える──その間に、おすすめ具材として紹介してもらった里芋を下茹でした。

里芋は、ぼくが台所を引き継いでから、冷凍ものしか使ってこなかった。55年間、一家の台所を守り通した母曰く「皮むきで手が痒くなる」と伝え聞いていたので、楽器演奏にも大切な手を守ることを優先した。そもそも、台所を引き継いだばかりのぼくには〈皮むき〉までこなす余裕などなかった。当時は色んな冷凍食材に助けてもらったが、8年のキャリアを積んだ今では、冷凍庫は炊き上げた玄米を保存するだけの役割となっている。

茹で上がり、皮を取り除いた里芋を一時的にタッパーに移し替える──そしてもれなくひと口味見・・・。


「何食べても美味しいなぁ」


塩味もない、純然たる里芋の味はこうなっているのか!? わずかに芯の残った歯触りと、里芋特有の粘りととろみに、文字通り〈舌鼓〉を打った。その瞬間、静けさがしっかり馴染んだこの家に、ぼくの独り言が鳴り響いた。


(母がよく口にしていた台詞だ)


一瞬にして静けさを取り戻した台所に立ちながら、ふと心のなかでそうつぶやいた。

母はどこまでも〈今〉という瞬間を楽しんでいたように思う。絶えず朗らかで、自分の気分次第で苛立ったり、それを周りに向けたりした様は見せたことがない。そう努めていたのか? それともその言葉も概念もなかった時代からの〈天然〉だったのか? 少し前までは後者だと分析していたのだが、母の人生を追っていくと、それでは説明し得ない出来事がたくさんある。

大胆でいて、かつ綿密な準備を欠かさない──豪快な思い切りのよさもあったが、母にはとても慎重な面もあった。よく憶えているのが、兄とぼくを連れて飛行機で旅行に出ることになったときのことだ。


「万が一のことがあるかもしれんから2便に分けて行く」


兄はぼくよりひとまわり年上で、当時は既に成人していた。そうなると、必然的に兄だけひとり別便に乗り、まだ小学生だったぼくと母が同じ便に乗ることになった。子供ながらに「そこまで考えて行動するのか?」と感心した記憶がある。そしてその記憶は、後々のぼくの行動指針として熟成されていった。


「まぁ、なんとかなるやろ」


この一年、やはり母がよく口にしていたこの言葉を幾度も思い返していた。それだけ切り取ると、なんとも無責任な言葉に聞こえるが、そう言いながら実際に、かなりの難局を乗り越え続けてきた母だと思うと、なによりも確かな説得力があるのだ。


──なんとかする──


母は、時の運任せにしていたわけではない。「なんとかなる」ではなく「なんとかしてきた」のだ。大胆でリスクをともなうような決断でさえも、それを叶えるために入念な準備と行動を実行していた。50年前、当時間もなく38歳を迎えようという年齢で〈ぼくを産む〉という決断を下したのもそのひとつだ。しかも夫の余命宣告を受けた状態であり、なおかつ、兄という幼な子がいるというのに…。出産に伴い緊急事態に陥っても命と暮らしが守れるよう策を施していた。万全な体制が整っている大学病院での出産を取付けたことはもちろん、いざというときのために姉である叔母に兄を託すことも視野に入れていたのではないかと思う。


──幸運を手繰り寄せる──


そのために、母は一切手を抜かなかったのだ──今ではそう解釈している。


「あんたが頼りや」


そんな母が、そう口にしてくれるほど、ぼくは全身全霊を込めて、在宅介護を男手ひとつで乗り切った。これに限っては、胸を張ろう。そしてその〈事実〉を大いなるエンジンにして、これから、母が成し得たような暮らしを目指していく。


──よく寝てよく食べてよく笑う──


昔から云われる通りだ。これさえ守り通せればすべてが滞りなく運ぶ。だから今日も、まずはよく食べるのだ!(言い訳)

元旦のラザニアは、こうしてそっと冷蔵庫の片隅に身を寄せて、再び出番を待ち侘びている(煮込みの間に作った〈アボカドの醤油漬け〉まで待機してくれているこの幸運にこのうえない感謝を)。


さてと──。


いただきます(ニコ)


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