主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと

【介護者生活8周年── 信じる・受容れる・自然に過ごす──無意識の決断】1/3

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2020年10月21日


かつて母が過ごした介護老人保健施設に隣接する森のなかで、これを書き始めた。

同じエリアにある、母のかかりつけの病院へ今年も健康診断の申し込みにやってきたのだが、2020年はこれまでとは勝手が違うらしい。感染拡大防止のためか、すでに定員オーバーとのことで、折り返すように家路へ。しかし、今日の本当の目的は、この場所に身を委ね、平静な時間を味わうことだった。ゆえに、今日もぼくは、願いを叶えたのだ──そう強く言い聞かせようと明るい光を自らに注ぐと、ぼくの背後には色濃く影が落ちる。注ぐ光が強ければ強いほど、決して満足とはいえない現状を表象するように、その影は存在感を増していく。

世界を一変させた出来事の目撃者となった2020年──その真っ只中で暮らす日常は、ぼく自身をも変化させた。

振り返ればこの1年、全力を上回る勢いで創作に打ち込んだ。2018年暮れに、母が正式に特別養護老人ホームに入所したことを契機に、介護者としてひとつの節目を迎えたぼくは、2019年、創作のことを主眼にどこまでできるか試していたような気がする。


──求められる場所で全力を尽くす──


結果は出した。自分が掲げる創作における目標と発表したのちの受け入れられる様まで、頭に描いていた通りになった。ただ、唯一想像していなかったのは、自身の故障──冷静に思い返せば、それも当然の結果だった。あれだけ惜しみなく情熱を注いでしまえば・・・気づけばこの暮れで50歳を迎える。かつてと同じような加減ではいかないとわかっていながらも、本来なら、あらゆる条件が整って、もっとも充実した創作に打ち込める時期になると願っていた40代のほとんどを、介護者として過ごすことになったその遅れを、この1年で取り戻そうとしていたのかもしれない。

自宅でぼくがひとり母を看ていた時間が4年、母が自宅と病院、施設を行ったり来たりするようになってからさらに4年が経ち、この10月で、介護者として丸8年が過ぎた。特別養護老人ホームに入所させてからも2年になろうとしている。「特養入所」という節目を迎え新たな決意を表明をするために「元介護者」という肩書きを記してはみたものの、気持ちにはあまり変化がなかった。母との濃密な時間を過ごす間に生じてしまった様々な問題が未だ解決の途にあることも理由ではあるのだろうが、本当の理由は他にあるような気がして、今もこの森に身を沈めて内観を続けている。

母が暮らす特別養護老人ホームは、今年の季節性インフルエンザの時期から例年通りの面会制限に入り、続く新型コロナウィルスの影響による感染予防対策のため、面会制限は今も継続されている。面会ができないわけではないのだが、思うところがあり、互いに無理なく顔を合わせられるようになる時を待つと決めた。しかし、世界はそんなぼくの小さな希望さえ受け入れてはくれないほど、今も静かに荒れ狂っている。母を想うだけの日々が、これほどまでに長くとは予想していなかった。けれど、これもまた、母を見送るまでに必要な心構えとして、見えない大きな力に試練を与えられている──この8年、何があっても、どんなときにも、そう思うように努めてきた。


「あんたはひとりで生きていけんのか?」


介護者としての日常は、母に絶えずそう問いかけられているような気がしてならなかった。きっとぼくが、ぼく自身を信じ、受容れ、自然に過ごすことができる日を迎えるまで、母はこの世で「母」としての役目を果たそうとするのではないか・・・いつか覚えたそんな予感が今も続いている。

2/3へつづく

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