主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと

【笑う門には福来たる──母の日2020】

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2020年5月12日

母が暮らす特別養護老人ホームは、例年、季節性インフルエンザの時季になると、館内での感染予防のため面会制限が行われる。今年はそれが、無期限で延長されている。当然の判断である。

去年から、意識的に母との距離を保つようにしてきた。理由は様々あるのだが、最も大きなわけは、「母の不在」に慣れていくことが必要だと感じたからだった。


──逃れえぬそのときのために──


母を無事に見送ることを目標として介護者生活を送ってきたが、「明日が来るかさえ定かでない」と常々感じて生きてきたぼくには、それが「果たし得なかった約束」として散ってしまうこともあり得ると覚悟している。新型ウィルス危機に脅かされている今となってはなおさらのことだ。

報道により知らされる数々の訃報──ご遺族のみなさんの心のうちを察すると、身を切られる想いに支配されて、一瞬にして気力を奪われる。


──母にもっと会っておくべきだったんじゃないのか?──


かつて強い意志をもって下した自分の判断に迷いがでて、余計に苦しくなる──今はまさにそんなときだ。

施設では、オンラインでの面会にも対応して下さっている。こころある介護を熱心に施して下さるこちらの施設に迎え入れていただいて、我が家は本当に幸運である。職員の皆さんは、感染を免れるためにご自身の日常生活にも制限をかけておられるのではないだろうか? そんなことを想像すると、母との面会を希望することよりも、日々の介護業務にかかる手間を増やしたくない気持ちの方が勝る。現代は便利な電子機器が無数にあるため、母にそばにオンライン面会用のツールをセットすることも考えたが、その保守管理と衛生保全はスタッフの方々の負担になる──そんなとき、すっかり利用機会の薄れた機器に目が向いた。


「そうだFAXで手紙を送ろう」


・ビデオメッセージを撮ること
・メールでメッセージを送ること
・手紙を書くこと


いくつかの方法を検討したけれど、FAXに勝るメリットは感じられなかった。


タブレット端末でビデオを母に見せてもらう手間もいらない
・メールをプリントする必要もない
・郵便物の付着ウィルスの心配もいらない


届いたそばから紙に印字されるFAXの手間いらずなありがたみを今になって深く噛みしめている。


──言葉──


ここから人類の進化が始まった。いまこそ、そのちからを最大限に使いこなそう。幸いにも、ぼくには「語り綴る能力」が備えられているのだから。

施設から送っていただいた写真を観て、嬉しさよりも先に苦しさが込み上げてきてしまった。しばらく会えない間に、母の姿はゆっくりと衰えているようにみえる。

それでも母は、この日も笑顔だった。


──笑う門には福来たる──


母の笑顔がぼくに教えてくれたことだった。

そしてこの言葉にもある「笑顔」の効果は、脳科学でも証明されてるようだ。意外にも単純な脳は、嘘でも笑うと「今の状況は楽しい」と判断するらしい。

少々の不調はあれど、今のところまだ身体の自由も利くうえに、何より今もこうして生きている。


──こんな幸福なことはない──


だから今日も笑うことにする。「は、は、は」と声を上げて笑うのだ。たとえ込み上げてきたものが溢れそうになっても。

おや? なんだか歌ができそうだ。


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