主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと

【世界一平和で安心安全な場所 ──Jくんとラザニア】

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2020年4月10日

あれは確か、小学三年生か四年生のころだった。

ある放課後、仲良くしていたJくんのお母様に声をかけられた。


「ラザニア食べに行きましょうよ」


ラザニア・・・聴いたことのない響きだった。

当時は昭和50年代半ば。今のように「イタリアン」と呼ばれる食事が街なかで気軽に食べられる時代ではなかった。「パスタ」より「スパゲティ」の呼び名が一般的だったし、家庭では、定番のナポリタンに缶詰やレトルトのボンゴレビアンコが加わって「新しさ」を感じていた時代──Jくんをコマーシャルタレントにした、今で言うところの「ステージママ」だったくらいだから、お母様は流行に敏感だったのだろう。

連れて行かれたのは、渋谷パルコだった。その中にあったレストランで食べたのが、ぼくの初めてのラザニア──しかし味はまったく覚えていない。きっとそのとき、お母様はリゾットもたのまれたのだろう。そのビジュアルが強烈に記憶に残っていて、長い間、ラザニアと言えば「米」の入っているものだと勘違いしていた。

それからラザニアを食すことは、おそらく全くなかった。母はオーブン料理は一切やらなかったし、イタリアンレストランが勃興した成人期になったころには、音楽の道で四苦八苦していたからデートに出かける余裕もなかった。そして、流行りものとは積極的に距離をとる姿勢は当時から貫かれていたうえ、何より、家でいただく母の料理が美味しかったから、外食する理由が見当たらなかった。

にも関わらず、今、自家製ラザニアをよく作るようになった。きっかけはあるドラマだった。


「言いそうなセリフがよくでてくる」


そう教えてもらって観てみると、料理のポイントや生きるうえで大切にしていることなど、ぼくがいいそうなことが確かによくでてくる。主人公の男前度合いと主夫力もぼくを映したようだ…と、得意の冗談と妄想を働かせて存分に楽しみ、すっかりハマってしまった。物語の本質も去ることながら、ぼくにとっての一番の見所は、食卓を囲むことの大切さが日常風景としてよく描かれているところ。その点に強く深く共感する。それは、ぼくが母から自ずと学んだことと同じだからだ。


──食卓こそが世界一平和で安心安全な場所──


だからここでは、どんなときも笑いに包まれていたい。仕事の話はもちろん、愚痴や悪口なんてもっての他だ。ぼくの愛する映画《ゴッドファーザー》でもそれを表象するかのようなシーンがある。


「パパは食事の席では仕事の話はしなかったわよ」


おかげで、ぼくは仕事の現場での食事の席が苦手になった。ランチミーティングなんて誘われることもなくなったが、以降お声が掛かっても食事とミーティングは別にしていただく提案をするだろう。


──食事のときは、目に前の料理とその相手に集中する──


プライベートでは、それが敵う相手としか過ごさない。


いまはそれさえも叶えられないのだけれど…。


ラザニアをよく作るようになったのは、作りおきができると分かったからだ。大きな器で焼き上げて、8等分にカット。電子レンジに対応しているタッパーに個別に移して冷蔵庫で保存すれば1週間程度は持つ。手作りするには手間のかかるミートソースは今回、2回分を一度に作り、現在冷凍庫のなかで寝かせている。

自主隔離生活前半は、ラザニアを毎日食べることができる。母の介護がきっかけで料理をすることになったのだが、こんな形でも役に立つとだなんて…無論、本望ではないが、改めて、この幸運をありがたく思う。また母に会える日が来たら、感謝の気持ちを伝えたい。

その日がまたきっとくると信じて──。


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