主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと

【我が愛器からの忠告】

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2020年3月27日

3月21日──その日の夜は意気揚々としていた。厳戒態勢のなか行われたあるリハーサルは順調に進み、ようやく音楽の全体像が見え始めていたからだ。帰宅後、予定どおりアサリのパスタを作り満足な夕食をいただくことができたのも、気分が高鳴る要因のひとつだったと言えよう。


「いい流れだ。このまま仕事に取り掛かろう!」


食後、いつも通り作業を始めようとマシンを起動するも、外部ハードディスクの認識が不安定になっていた。これはリハーサル中からでていた症状ではあったが、たびたび起こるため、回避方法は既に把握済みだった。

手慣れた手順でメンテナンスを進めていると、突然のシャットダウン…嫌な予感がした。


──覚えのある症状だ──


再起動を試みるも、案の定だった。

ビデオボードの故障──この機種が抱える不具合として2016年秋にリコールを受けていたが、同じ問題が再燃──ここから再起動ループに陥ってしまった。


「このところ過酷に働かせていたから」


知られている修復作業を一通り試みてはみたが、もちろん回復せず。バックアップマシンの準備を進めつつ、修理の情報を集めることにした。

その間、ふと我に帰った。


「これは、ぼくに対する忠告に違いない」


母の介護に直接関わることがなくなった去年から、自分でも信じがたいほどの勢いで制作を勧進めてきた。無理がたたったのか気力体力の限界を迎えたのか、昨秋から重ための気管支炎を患うほどにまでなった。それでも身体は意外にも動いてくれて、この年始からは再び全力だった。


──ロックとオーケストラの融合した映画のような音楽──


多くのロックスターたちが実践してきたようなアイデアをひとりで実現するため、愛器と共に無意識に「暴走」していたに違いない。コンピュータのファンは絶えず唸りを上げていたが、それでも持ち堪えてくれたので、つい無理をさせてしまった。故障する直前も、並行していた作業が3つほどあったから、余計に負荷が重なったのだろう。

けれど不思議なことに、そのいずれの案件の進捗は、ちょうどキリの良いところだった。提出期限が迫っていた事案は、なんと故障前夜に完成。特にそれは、この14年分の想いが詰まっているもので、お世話になった方のためにもどうにかこのチャンスをものにしたいというそんな強い気持ちがあった。

身体は辛かったはずなのに、今も苦しさはあまり感じていない。母が授け育んでくれた強い身体のおかげであることに加え、病いも回復傾向にあるゆえだろうと冷静に現状を分析していたが、しかし、あのまま続けていたら…大事に至っていたもしれない。

愛器は現在、修理にでている。古い機種ゆえ治せない可能性もある旨、受付時に確認しあっているが、いまのところ業者からの連絡はない。順調であれば週明けにも帰ってくるはずだ。

故障以降、連日、バックアップマシンの環境構築を進めていた。マシンスペックがだいぶ劣るため、同じような作業をするには時間がかかりそうだが、これはあの《LIVE BONE》を制作したマシン。この危機的な時期に、再びこのマシンと向かい合うことになったのは、実に不思議な運命だ。

《LIVE BONE》は今年で初演から10周年を迎える。何の当てもなく始まった試みが作品へと成長し、幾度も上演の可能性をいただけていると思うと、深く深くありがたくおもう。と同時に、明日の事は誰にもわからないという普遍の真実について改めて想いを馳せることになる。


──今を越えて、望む明日へ──


マシンの復元は、慎重に慎重を重ねて行った。そして今朝、ようやく本格的作業に移れそうなレベルに達した。


──よし! 今から全力!──


とならないように、我が愛器はまさに身を身を挺してぼくに示してくれたことを忘れてはならない。

気づけばだいぶ疲れを感じている。当たり前だ。あんなに全身全霊を投じたのだから。身体は未だ万全ではない。今日は休む──これで決まりだ。


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