2019年1月1日
元旦を迎えた──。
前日約束した通り、今日も母に会いに行った。到着時刻は、昨日よりも40分ほど遅れた午後5時丁度。母の居室から臨む空はまたしても、見事な色気を放っていた。
「今日はなんだかよく笑うね」
「あんたの顔が面白い(笑)」
「自分で産んだ子によく言うね」
「(笑)」
「そろそろいい歳だから、笑われるより息を飲まれる男前を目指しているんだけどな」
「男前には興味ない(笑)」
「歳とったら薄っぺらいおっさんになるだけだもんね(笑)」
ぼくのことを思い出せるときと思い出せないときがある。今日は思い出せなかったようだけれど、今もこうして愉快な時間が過ごせることを、とても幸運に思う。
「元旦にさ、こうして家族で過ごせるってどう思う?」
「結構です。ケッ・コー・です(笑)」
母は繰り返し、語尾を強調してそう伝えてくれた。
「あんた何しにきたん?」
「理由なく顔を見に来るのが家族でしょ」
「家族…カ・ゾ・ク(笑)」
母が何を伝えようとしているのか? 今はわかる必要などなかった。こうしているだけでいい。そう、ただこうしているだけで…。
元旦に、初日出と初夕陽を見届けた記憶を探してみたけれど、思い浮かばなかった。
──1日の始まりと終わりを見た日──
すっかり暗くなったひと気の少ない街のなかに車を走らせながら、そんなことを考えていた。すると突然に、これまでの棲家だった夜の世界がとても怖ろしく感じられた。
──早く家に帰ろう──
たとえそこが今はぼくだけの棲家でも、夜は静かにここで過ごすのがいい。この静けさのなかに、ぼくが追い求めるものがあるに違いないから。
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