主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと

【介護者が口をつぐむわけ──夕陽を見つめて】

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2018年12月31日

夕刻、日が落ちる前に母を預けている施設に着いた。


──母の居室からみた平成最後の夕陽──


あまりの光景に、言葉が見当たらなかった。

この秋、夏場から5週間の入院生活を経てこの特別養護老人ホームに戻った時、母の部屋が東側からこの西側に移された。それは、今日、この瞬間のためだったに違いない──そう思えるほどの光景が目の前にあった。


──ぼくの大好きな大きな西の空がある──


今の母はなかなか身体が起こせないから、写真に撮って見せると、今も変わらない朗らかな笑顔で応えてくれた。

大掃除を終えたことなど話しながら、この6年という時間のことを思い返していた。未だ完全には言葉にし得ない数えきれない気持ちがあった。


──母と過ごした日々のことは、ぼくしか知らない──


そんな膨大な時間に起きた出来事や溢れた想いを他者と共有すること──それはできれば、いくらか楽になれたかもしれない。しかし…恐らくそれは、叶えられることのない望みだ。

介護者が口をつぐみがちになるのは、そのことを体験上、知っているからだ。ぼくもうかつに口にしては、何度も心を痛めてきた。

仮に同じ介護者同士だとしても、想いが通ずることは非常に少ない。それぞれに環境や状況、境遇が異なれば、抱えている想いは噛み合わないのが常だ。まして相手が非介護経験者ともなれば、その状況や介護者が抱える心情が思い浮かばないのは当然のことである。


──多くの介護者は、そうして孤立していく──


大介護時代がまもなく訪れると危惧されている今、一足先に介護を経験したものとして、この体験を必要とされるときに社会に還元したいと思うこの頃だ。しかし言うまでもなく、今にぼくにはそんな余裕はないのだけれど…。

暮らしを立て直そうとして、既に2年が経つ。なかなか思うようにはいかない。

しかし、介護者として節目となるこの年の瀬に、「整った」という感覚を得たことと併せて、実際にこの我が家の環境に整理がついたことは何よりだった。場所も見立ても変わってはいないけれど、気持ちだけは、新しい土地へ移ったくらい違っている。


──生まれ変わったことを祝う──


そう口にして母に会いに出掛けた矢先に、まるでそれを祝福するかのような絶景が授けられた。夕陽は地平線に近づくと素早く沈んでいく。あと1分早くても遅くても、目撃することはできなかっただろう。

今日の母は、いつも以上に元気だった。入歯が未だ破損したままなので呂律が回っていないことは変わりない。それでもたくさん会話した。

話の途中、母は唇に人差し指をかざして一言、ぼくに伝えた。


「そんなに一生懸命話さんでもええ」


ぼくが治療中の喉をかばって声を嗄らせて話している様子を案じてくれたのかもしれない。


──誰にも届かなくていい──


苦しみと切望のなかにも、こうした愛しい時間が、ぼくと母には確かにあったのだ。数えきれないほど、たくさん…。


「今日もこうして2人で大晦日を迎えられることが何よりだね」


そう伝えると、母は少し照れた様子で笑っていた。


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