主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと

【夕陽のような朝陽のなかで】

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2018年12月14日

眠る前に30分ほど読書をしている。この時間に読むのは決まって小説だ。

昨夜はだいぶ作業に煮詰まり、目立った成果もなく、明け方、風呂に入った。前日はこのあと、驚異的な直感が働き一気に歌詩を書き終えたのだが、今日は何も起こらなかった。


──疲れが溜まっているのか?──


温まった身体でいつものように机に向かい、読みかけの本を手にとった。今日も物語の世界に浸りながら、色んなことに想いを馳せていた。もう数日で、この長い小説を読み終える。

本を閉じ、ふと窓辺に目をやると、午前7時半を過ぎたころだった。ぼくの左手には、母が大切にしていた鏡がある。パイン材の机の天板を照らしたデスクライトからの反射光が、日焼けとは無縁はぼくの表情を、より青白く浮かび上がらせていた。


──夕陽が部屋を照らしている──


ぼくには自ずとそう映った。

あれは母がまだこの家に暮らしていたころの出来事だった。夕方に居間に入ると、母は出掛ける支度を済ませ、椅子に腰掛けながらぼくを待っていた。次の日の朝早くから出掛ける予定があったのだが、どうやら母は、薄暮のころと明け方の見分けがつかなかったらしい。その日、随分と長く昼寝してしまって、昼と夜を勘違いしてしまったのだろう──今から4〜5年前の出来事だったかもしれない。この6年、たくさんのことがありすぎて、細かいことはもうよく思い出せない。ただ、大きな庇のついた帽子を被りサングラスをしていた母の後ろ姿を覚えている。きっとそれは、真夏の出来事だったのだろう。


「とうとう惚けたんかなぁ」


母は苦笑いして、その場を繕ってくれた。

母があの日、夕陽を感じながら整えたのは、かつて棲んだ場所へ帰るための支度だった。あれからだいぶ時間が過ぎた。変わりゆく母を見つめながら、様々な気づきを授かった。だから今なら、そのことがとてもよく想像できる。


──お迎えの声がかかった──


この世の母を絶えずみまもってきた、あの世の母自身から──。

今朝の朝陽のなかで、ふとそんなことを思い浮かべながらぼくは眠りについた。

    
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