主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと

【ラジオのある生活】

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2018年5月10日

先月までお世話になっていた介護老人保健施設入所中から、母はそれまでずっと聴いていたラジオを聴かなくなった。

自宅にいたころは、寝入るときには必ずラジオをそばにおいていた。ときには深夜番組も聴いていたらしい。


「岡村くんのオールナイトニッポン、きいてんねん」


ぼくと同い年、同じ独身の岡村隆史の番組ではある──80歳を超えたリスナーは、どれくらいいただろう?


「下ネタを話して盛り上がってた」


そんなことを昼間に嬉しそうに話してくれたこともあった。

それまで、母はその手のことを口にしなかったから珍しいことだと当時は思ったけれど、今になって振り返ると、認知機能の低下が徐々に始まっていたのかもしれない。

いずれにせよ、母はいつでも楽しそうだった。それが何よりだった。

今年、2月と3月に一時帰宅をした際にも、母はラジオを手にしなかった。もう興味がなくなってしまったのだろうか?

特別養護老人ホームへ移ってからは、個室での生活になった。周りに気兼ねなく過ごせるはずだから、もう一度、ラジオを手渡してみることにした。

操作は辛うじて憶えているようだったが、微妙な選局は難しい様子だった。

しばらく試して使ってもらおうと、居室の枕の横に置いてみることにした。スタッフの方には、騒音などの問題が発生したら、遠慮なく手の届かない場所に保管していただいて構わない旨、お伝えした。

母はぼくが顔をだすと嬉しそうに手を挙げて迎えてくれるが、会話はなかなか弾まない。子供のころのように「今日、こんなことがあったよ」と、あれこれ話題を振ってみても、反応はあまりない。健常であったとしても、離れて暮らすと会話は詰まるものだから、こうした時間を見つめることも「自然」と言えるのだろう。

それでも、《サーカス》の上演の話をすると、力強く応えてくれた。


「なんとしても行きます」


施設側にも相談して、準備を進めている。当日、無事に送り届けるまで安心できないけれど、できる対策は怠らないようにしたい。これまで介護者として積み上げてきた経験を、すべて投じよう。

帰り際、ラジオを持った手元の写真を撮りたくて、必死に選局している母に声をかけた。


「ラジオを見せてよ」


すると、母はこんなポーズを返してくれた。


「なんだ? アイドルか?」


子供のころバレエを習っていた母が、ポーズをとって写っていた写真のことを思い出した。

お父さん、お母さんに、こんな風に笑顔を見せて、みなを和ませていたのだろう。

いつかぼくも我を脱ぎ捨てて、今の母のような和かな笑顔を放ちたい。

たとえそのとき、自分が誰であるかわからなくなっていても。


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