主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと

【白く輝く】

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2018年4月27日

このところ、眠りが浅くなっているのか、夢をよくみる。

先日は、大きなトカゲと一緒に暮らす夢を。今日は、まるで大海を旅するくじらのようにゆったりとした優雅さで気泡が煌めくプールのなかを潜りながら泳いでいる夢だった。いずれも楽しめる夢だったからよかったけれど、ぐっすり眠れず、疲れが溜まり始めている気配をこのところ感じ始めている。

今日は、母の特別養護老人ホーム入居日──泳ぐ夢を見ながら、どこかで「せめて晴れ間が広がっているといいな」と願いながら、目覚ましよりだいぶ早い時間に朝を迎えた。

迎えのため外に出ると、あいにく、空は隙間なく雲に覆われていた。けれど、それはとても不思議な光景に見えた。


──白く輝いている──


真上の空を見上げた。


──太陽が雲を発光させているんだ──


遠くの方を見上げる。厚い雲の壁を背景にして、その手前に別の雲が浮かんでいる。その姿はどこか人造な雰囲気を漂わせていて、まるで絵画を観ているようだった。

胸いっぱいの別れの儀式を終えて介護老人保健施設を後にし、母と2人、新しい棲み家まで30分ほどのドライブ。もちろん音楽は、いつもと同じ。パヴァロッティの歌唱による〈誰も寝てはならぬ〉だ。

母は今日もイタリア語の歌の最後の部分、「私は勝つ」という箇所を「ヴィンチェロぉ〜」と、繰り返し繰り返し合わせて歌っていた。曲が盛り上がる部分では、膝を叩いてリズムを取る。時にはバヴァロッティの歌い終わったところで、力一杯の拍手を送っていた。


──すべていつもどおり──


その様子を傍で感じていると、自ずと安心したのか、溢れていたものが収まってきた。


「ここが新しい家だよ」


そう告げると母は少し驚いた様子を見せたが、到着するなり職員の皆さんに投げキッスで挨拶をして、皆さんを笑わせてみせた。たくさんの笑顔と笑い声がこだましていた。

母を送り届け、居室で看護師の方に母の現状を申し送りし、いくつかの契約を交わした後、16時過ぎに家路に就いた。今日はすぐに家には向かわず、先日再開させたばかりの水泳を行うため、区民プールに車を走らせることにした。それは、そのまま帰るのが少し怖い気がしたからだった。


──無──


今日も変わることなく、ただ泳ぐことだけしか考えずにいた時間があった。


──だいじょうぶ、だいじょうぶ──


帰宅するころには夕陽が地面まで射し込むようになっていた。駐車場に車を停めて歩き出すと、その陽射しに気づいた。見上げた西の空には、いつもの見慣れた美しい夕暮れ時の景色が広がっていた。


何も変わってなんかいない。
何も起こってさえもない。
何も終わったわけでもない。


こうして静かに、淡々と、日々を積み重ねていこう。そうすることで見えてくる新しい景色が、きっとあるはずだから。


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