主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと。そして、それからのこと。

【解放】

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2018年3月29日

早朝、いつもの窓辺から、朝陽を背に染まる満開の桜を眺める。


──変化と刺激のある暮らしを──


表を歩くことが難しくなった母を車に乗せて、近くまで桜を観に出かけたことを思い出した。去年はこの時期ずっと入院していたから、あれは2年前のことになるのだろうか?──もう、よく思い出せない。


──考えうることは、すべて試した──


まだかろうじて歩けたころ、少しでも脚力を維持しようと、いろんなところにでかけた──子供のころよく連れて行ってくれた新宿伊勢丹の地下食料品売場──昔、母が営んでいた喫茶店があった東京・京橋──車通りの少ない道を選んで最寄りのスーパーマーケットまで──自分の音楽が使われる公演を観に来てもらったこともある。

徐々に歩ける距離が短くなっていって、車椅子移動にせざるを得なくなったころには、自宅からわずか150メートルしか離れていない駐車場まで歩くのに15分もかかっていた。それでも、杖をつきながら何とか歩こうとしてくれた母を傍らで見守りながら、祈りを込めて伴奏した。

すり足になりがちな母に、転ばないようつま先をあげる意識を持つよう促したり、安全のため周りを確認してから動き出すように意識づけをしたり…まるでリハビリ担当者のようだった。

それでも、時が過ぎれば、途中で休憩しなければ歩き通せなくなった。時には、息が上がって歩行継続ができなくなったこともあった。安全な場所に母を休ませて、ぼくはひとり足早に車を取りに向かったことも何度かあった。

病院での手術もリハビリも、説得するまで長い時間が必要だった。意欲散漫なリハビリ機会も、ぼくが立ち会って集中を促した。週2回の自宅訪問リハビリと週末の病院通所リハビリに加え、2週に一度の往診への対応…入院すれば、ほとんど毎日のように顔を出していた。

こうして、この世に自分を生んでくれた人がゆるやかに老いていく段階を、この目で見つめてきた。


──なにをしようと時間は前に進んでいく──


──もう十分なんじゃないか?──


時おり、そうして自分を納得させようとしている。


──あのとき、ああしていたら──


それでも、そんなことばかりを振り返っては、今も何かできることはないのか?──そうやって思案してしまう。


今年もまた、桜は想い出深いシーンをぼくに植えつけた。

次の春にも、そしてまたその次の春にも、きっと忘れ得ない出来事をぼくの心に刻んで、桜はいつもと変わらず、美しく花びらを散らすことだろう。


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