主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと。そして、それからのこと。

【或る静寂のなかで】

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2018年2月26日

午後、かれこれ3年通っている某大学病院へ。胸に残った小さなケロイド痕と、左手薬指内にできた良性腫瘍除去の後遺症の治療に。

いずれも、2011年の手術による結末だった。あれからもう7年にもなるなんて、随分と遠回りした気分だ。

それでも、「もう治ることはない」と半ば諦めていた指の故障は、結果を期待せずに進めた治療が功を奏したのか、ゆっくりと痛みが遠のき始めている。

ギター演奏時、薬指の先端のある箇所を使って押弦すると激痛が走るため、そこを避けるように演奏技術を工夫してきたのだけれど、最近では、あまり気にしなくて済むようになった。実際に痛みのあった場所を親指の爪で強く押しても、以前ほどの痛みは感じられない。

実は、同じ指のトラブルを、ギターを弾き始める前、17歳のときにも抱えていた。あのときは、左手小指の先端に。当時も手術に挑んで、包帯を巻いたまま、動かせる指だけを使って、練習していた。

自分の録音のためしか演奏しないし、ギタリストというわけではないから大きな支障はないのだが、「ギター愛」が深いだけに、叶うなら指は自由でありたい──その願いが叶えられるときが近づいているような予感が最近している。

ケロイド痕も含めて経過を診ていただき、引き続き同じ処方を継続していくことを互いに確認して病院を後にした。

駅までの道のりは、下町の雰囲気漂う細い路地を抜けていく。普段なら、音楽を聴いて耳を塞いでいるのだけれど、今日は耳を解放していた。

まもなく表通りに差しかかろうとしたときだった。先週、ある街のある交差点で突然に覚えた、あの多幸感のようなものに似た何かを再び感じた。あのときのように、「今すべてを終えてしまっても構わない」とは思わなかったけれど、とても静かで穏やかな暖かさのようなものが、ぼくの中にあった。


──静かだ──


この街が、こんなにも静寂に満ちているだなんて、今まで気づかなかった。

大通りにでると、突然、車の往来が激しくなり、その静けさは一瞬にして喧噪に巻き込まれ、消え失せてしまった。


──春が近づいてきている──


そのときなぜだか、そんなことが頭を過ぎった。


──そのわけは、あえて自問しないままにしておこう──


それが、今のぼくの願いだった。


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