主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと。そして、それからのこと。

【在宅介護を終えるとき】

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2017年9月23日

 

24:17──。

 

母の洗濯物を洗って、1日の終わりをようやく迎えた。

 

今夜は深夜まで放送されていた演芸番組を母が見入っていたこともあって、だいぶながく時間を一緒に過ごした。夕方、母は静かにテレビを楽しんでくれていたので、夕飯の支度まで仮眠を取るも、昨日からの寝不足が祟って、目覚めるとすっかり夜になってしまっていた。

 

もちろん目覚ましは、母が椅子から立ち上がった際に反応した人感センサーのブザー音。

 

携帯電話からモニターしていたみまもりカメラの映像にすぐさま目をやると、母がトイレに向かおうとする様子が映っていた。少し寝ぼけながらも飛び起きて二階の居間に駆け上がり、ことなきを得る。

 

こんなうっかりした瞬間に何かが起こってしまうものだが、今日は何事もなく、救われた。

 

寝坊を詫びてそのまま夕飯の支度を開始。今夜も母が喜ぶパスタだ。カルボナーラを拵えて二人で味わった。

 

最近の母はすっかり子供がえりしているので、ボソボソとこぼした麺を手づかみで口に運び、前掛け代わりに用意した真っ赤なナプキンを見事に油まみれにする。そんな様子を見つめながら、変わりゆく母の姿に嘆息しつつも、知るはずもない自分の幼いころの姿を重ね合わせている。

 

先月、今月と二タ月に渡って一時帰宅の機会があったが(ショートステイの連続利用に30日間という上限があるため)、常時みまもりと全介助が必要となった今、ひとりで母を看るのは、この二泊三日という時間が限界だとつくづくわかった。

 

 

──在宅介護を終えるとき──

 

 

当てのない旅路のごとく、終わりの見えない介護者としての時間に終焉の報せが届くのだとしたら、きっと今に違いない。

 

 

──いったいいつになったらゴールが見えるのか?──

 

 

その不安に押しつぶされてしまうケースは恐らく数知れない。現在の介護保険の制度上の趣旨は、

 

「公的サービスでできる限りサポートをするので自宅で看てください」

 

というものだと理解している。

 

そのせいか、誰も終わりの「目処」となる状況を示唆してはくれない。各ケースが異なり状況過ぎて比較できないことも理由にあるのだろう。

 

 

──「だから、やるしかない」──

 

 

介護を受け持つ方は、みなそう思って取り組んでいるはずだ。

 

そうやって少しずつ自ら経験して感じて、日々、自分の心のうちを知り、自ら結論を導き出していくほかない。

 

 

──ただ、これはだけは共有できる考え方になるのではないだろうか?──

 

 

──せめて自分の身の周りのことは自分でこなせる状態にあること──

 

 

さもないと、ひとりきりではとてもみまもることはできない。ましてぼくのように時間の不規則な暮らしをしていたら、公的サービスを頼るのも難しくなる。

 

乗り切っていくにはお金も本当に大切で欠かせないのだけれど、やはり一番必要なのは「人手」。

 

介護に限ったことではない。頼りになるのは、まさに字のごとく「信頼できる人」であることを今一度知ることができただけでも、この5年という時間は無駄ではなかった。

 

母の世話が重くなりかける前、少しでも家事負担を減らそうとフル全自動のこの洗濯機を手に入れて、母にも役割を与えるために使いかたをレクチャーしたときのことを、今夜思い出した。

 

既にこのころから理解力も衰えていたのか、なかなか手順が頭に入らなかったので、ボタンを押す順番を赤や青のテープでマーキングしてマニュアルまで作った。

 

確かその年の秋に、フランス・ナントまで作品展示にでかけたのだけれど、あの当時はまだひとりで留守番を任せられる状態だった。ゴミ出しも洗濯物できたし、お風呂もひとりで入れた。

 

 

──今はただ、今に在るのみ──

 

 

こうして、いずれ何もかも、ひとつずつ手放していかないと、この浮世を去る支度は整わないのだろう。

 

だとしたら、まだまだそのときは先になりそうだ。

 

 

──ぼくたちのことも、忘れてからにしないと、ね──

 

 

色々と思い残すと、心配になるだろうから。

 

 

大丈夫。こうしてたくさんの時間を遺してくれたから、ぼくたちの準備はきっともう整っている…はず。

 

 

──最期に身体を手放して、いよいよ解き放たれる──

 

 

そう思うと、人がこうして生きるのは、その最期を迎えるためなのかもしれない──。

 

 

それがどんなことなのか?

 

 

いつか母を無事に送って、この胸にしっかりと刻みたい。

 

 

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