主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと。そして、それからのこと。

【この風のわけなどいらない】

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2017年7月14日

 

I've just made a decision.

 

まだ梅雨の明けきらない東京のある日の早朝、ぼくは遂に決断した。

 

ようやく陽が昇りかけた頃、一晩かけて淹れた水出しコーヒーで一服しようと台所に上がって、この5年、見つめ続けた西向きの小窓の前に立ち、最近手に入れたばかりのバースプーンを手に、氷で満たしたビアグラスに注いだコーヒーをステアする。

 

一気に冷気が指先に伝わり、コーヒーはまさに飲み頃になった。窓を開けると、蒸した熱気で満たされた部屋に涼風が流れ込でくる。

 

カタカタと音を立てるグラスを片手に、痛めた腰を労わるために冷蔵庫の脇に置いたスツールに腰を掛け、代わり映えのない景色を懐かしいその風を浴びながらぼんやりと見つめていた。

 

 

「この窓を開けるとな、西からええ風が吹き込んでくるんや」

 

 

──母はいつもそう言っていたけれど、風が流れ込むのは換気扇が回っているからだということを知らなかった。

 

この風を感じるたび、何度も何度もそう口にした母…。

 

 

「そんな理屈は、どうでもええんや」

 

 

もしかしたら、そんな大切なことをぼくにそっと伝えてくれようとしていたのかもしれない。

 

 

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