主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと

【西の空に羽ばたく鳥】

2017年6月17日

 

「浩介!」

 

顔を見るなり、今日も母はぼくをそう呼んだ。まだ名前は憶えているらしい。

 

入居者の皆さんが集う広間がある。母の席は入口から見える位置に準備いただいている。面会にいくと、エレベーターホールから広間に近づいていくに連れて、ドアの窓越しに椅子に腰掛けた母の様子が見えてくる。

 

まだ扉を開ける前なのに、母は自ずとこちらを向く。きっと人影が見えるといつもドアの方を確認しているに違いない。

 

──ぼくが来ないかと待ち侘びて──

 

1週間ぶりの面会だった。そろそろ着替えが無くなるころで、洗濯物を引き上げにいく必要があった。業者任せにもできるのだが、顔を見せにいくためのいい機会だし、少しでも節約したいから…と、洗濯は自分ですることにしている。

 

母は先週よりもいくらか元気そうな表情をしていた。身体の動きは確認しなかったけれど、椅子に座っている姿勢もだいぶいいように見えた。

 

──もしかしたら──

 

自宅復帰の可能性があるのではないかとも想像したが、ぼく自身の体勢を整えないとそれも難しいことだと痛感するこの頃…そこへきて身体の具合が全快ではないというのが悔やまれる。

 

今日、少し長めの時間、外出をした。移動は車を使い極力無理の掛からないようにしていたけれど、帰宅すると、また痛みがぶり返してくる。

 

若いころからながらく痛みに耐えてきた身としては、こうなってしまうと時間が掛かるのは十分承知のうえだ。だから焦ってはいないが、時折走る強めの痛みは、どんなときも無条件に心身にダメージを喰らわせてくれる。

 

──遠景を眺めたい──

 

自宅で過ごし、手元ばかりをみているせいか、老眼も進み気味だ。いま叶うのはこの窓辺からの景色だけだから…と、ぼんやり遠くを眺めていると、西の空に向かって鳥が羽ばたいていった

 

「ぼくにもそのときが近づいているようだよ」

 

時を捧げよう。そのためにすべてを変えたのだから。

 

 

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