主夫ロマンティック

独身中年男子の介護録──母が授けてくれたこと。そして、それからのこと。

【太陽の子】

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2017年5月1日

 

太陽の子──。

 

母の入院期限が迫るなか、今日は午前中からケアマネジャーを筆頭に、母をサポートしていただいている総勢8名によるオールスタッフでの担当者会議が行われた。主な内容は、老人保健施設へ移るまでの間にお世話になるショートステイ先への病棟からの申し送り。

 

母は、今日の機会のことについて、何もわかっていない様子だった。

 

まるで大人の集いのなかに紛れ込んだ子供のように、ひとり暇をもてましていた。よほど退屈したのか、途中、突然口を開いたと思ったら、何と

 

「ビールのみたい」
「乾杯〜」

 

と…。

 

「新しいネタらしいんですよ」

 

リハビリ担当者によると、このところ、こう口にしては目の前にいる人と拳を合わせて(ビールジョッキを持っているつもりで)乾杯ごっこをしているらしい。

 

「毎日大変なスタッフのみなさんを楽しませてあげようよ」

 

「せやなぁ」

 

子供のころ、バレエや声楽を嗜みながら舞台を夢見た母にとって、今はここがステージ──

 

「誰にでも笑顔で声をかけて下さるからか、川瀬さんが来てから、みんな明るくなったんですよ」

 

──リハビリ担当者からの言葉だ。

 

約束した通りに、母は周りを明るく照らしている。


会議終了後、そのまま母のリハビリを見学した。身体の動きそのものはだいぶ戻ってはいるようだったけれど、立ち上がり動作など安定的にできるわけではないようだ。そして今も、トイレの問題は解決できていない

 

──階段を昇るなら、一段ずつ──

 

入所を希望した老人保健施設は、自宅復帰率の高さでも定評のあるところらしい──可能性がある限り…。

 

諦めるのは、抗い尽くしてからでいい。

 

リハビリを終えると、昼食の時間になった。新病棟になってから病棟のコミュニティスペースが拡大されたので、状態のいい患者さんはリビングに集まるような形で食事を摂る。

 

「いつも川瀬さんの隣にきて話しをされる男性の方がいるんです」

 

──恋、か?

 

食事が始まろうというころ、ぼくと同じ年のころと思われる入院患者さんが母に声をかけていた。

 

「今日退院って聞いたから、朝から待ってたよ〜。お話は何だったの?」

 

「知らん」

 

そのひと言で、自然とみな笑いが浮かぶ。

 

母は、太陽。
ぼくはその子供──太陽の子。

 

リハビリの担当者は、去年の入院のときにも対応していただいた方だ。母の状態と自宅の様子も把握していただいているので、的確な意見がいただける──母の衰えと反比例して、その成長ぶりには眼を見張るものがあった。何より、顔つきが違う。自信というよりも、どこか優しさに溢れる表情をしていた。

 

お世話になっている方のために光を灯すことができたなら、太陽もきっと本望だろう。

 

退院まであと1週間。次の受け入れ先へ向かうための準備を進めたい。

 

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