【こころを写す鏡】
2017年4月26日
人は互いを写す鏡──。
今の母は、見事にぼくのこころを写し出す
施設の空きを待ちながら続く入院も、いよいよ期限が迫ってきた。例外として延長もあるのか? と想像してはみたけれど、やはり制度は皆に等しく適用される。
5月中旬までは希望する施設の空きがないらしい。退院からそこへ移るまでの間は、これまで通り、ショートステイを頼る他ない。病院の相談係からケアマネジャーへ連絡を入れてもらい、調整をお願いした。幸いにも、慣れたショートステイに空きがあるらしく、希望している老人保健施設に移るまで受け入れてくださるという。
ただ、そこではリハビリは行われない。完全個室でトイレも室内にあるため、これまでと体力の異なる母が無理をしてしまう可能性もある。そして母の性格上、食事以外はほとんどベッドに横になってしまうだろう──。
ぼくの手を離れる以上、それはもうどうしようもないこと──考えないことにする。
今夜の見舞いの際、母にそのことを伝えた。
「来週、退院できるって」
そう浮れる母に本当のこと説明するのが、こんなにも苦しいだなんて…。
珍しく神妙な面持ちで、目線を逸らすこともなくうなづく母の顔を見ていると、そこから即座に逃げ出したい気持ちになった。
じっと見つめる母の表情から、ぼくはこころのなかでその無言のメッセージを創造してしまった。疑心暗鬼を生ずとはまさにこのことだろう
──育んできた創造力が暴走する──
結局、今夜は何度伝えても憶えてはもらえなかった
「来週、退院できるって」
そう何度も何度も繰り返す母の顔は、まるで幼な子のようだった。
2年前、仕事の都合で、嫌がる母を初めてショートステイに預けた日の痛みが今日、蘇ってきた。
まだ少し肌寒い日の朝、車に乗せようと母の手を引いた
「大きくて暖かい手や」
そう耳にしたときの張り裂けそうな想いを忘れないように…そう誓ったはずなのに。どこかで、ひとりこの静かな暮らしに酔っていた──
あの日を迎えないための準備が間に合わなかった。そして今も、何も変えられないままでいる
──結果がすべて──
無念。
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